163番です。

 

For a moment or two, I had not an idea what my employer was saying.

 

いつもこういう文だと助かりますが。

いつもの分解もするほどのことはなさそうですが、関係代名詞 what が使われていますので、ちょっとやってみてもいいですね。

 

① For a moment or two,

② I had not an idea

③                 what my employer was saying.

 

と、こんな感じになるでしょうか。

 

① しばらくの間、

② 分かりませんでした。

③ ご主人様がおっしゃっていることが

 

つなげて、

「しばらくの間、私はご主人様が何をおしゃっているのかわかりませんでした」

となります。

 

「すぐには、何をおっしゃっているのか理解できなかったのでございます」

としてもいいかもしれません。

 

さて、ここからは雑談ですが、こんな会話というか、言葉のやり取りは、どう考えても冗談に決まっているわけですが、それがスチーブンスには、急にはそうと思えなかったという方が不思議です。

奥さんを連れ出してくれて、食べ物はうちのでもちろん十分だが、近くの洒落たレストランに案内するとか、とにかく我々二人で話し込んでいるときに退屈しないように、気を使ってやってくれ、それをお前に頼むよというのが、ファラディ―さんの考えであることは当たり前だと思うのですが。

 逆に、そんなことにも考えが及ばないというのなら、ダーリントン卿の時には、スチーブンスと卿はどんな話をしていたのか、に興味がわきますね。

冗談もなくカッチカチの話に終始していたのでしょうか。

 

    

 

 

162番です。

 

She may be just your type.'

 

さいごにアポストロフィで閉じられていますので、ここまでがファラディさんのセリフというわけですね。

 

直説法の may be で書かれています。仮定法の might ではないので、確定的に「かもしれない」と言ってるところが冗談ということになるのでしょう。

 

いろいろ裏の意味はあるのでしょうが、

「案外、君の好みかもしれないよ」

と訳せますね。

 

 

 

161番です。

 

Keep her entertained in all that hay.

 

命令文になっています。主語は you ですから、それを補って普通の文にすると、

You keep her entertained in all that hay.

と書きなおすことができます。

SVOC の文型になっています。

前半は「あなたは 彼女を 喜んでいる状態に 保つ 」となりますね。

 

後半の in all that hay は、「干し草のうえで」ということになるのでしょうが、

hay と day のギャグとか、しゃれかもしれません。

day なら、in all that day 一日中、ということですが、ファラディさんとお客さんが話している間中、くらいで、意味としては穏やかです。

それを hay にすると、いきなり穏やかではなくなり、そこがファラディさんのアメリカ人的真骨頂ということになるギャグ、冗談の世界に なるわけで、スチーブンスは慣れていないのですね。

hay とday は勝手な解釈なので置いておいて、

「干し草の上で、おもてなしをしてやったらどうだい」

と訳しておきます。

 

 

 

160番です。

 

Maybe you could take her out to one of those stables around Mr Morgan's farm.

 

前後に引用符はありませんが、これもファラディ―さんの発言で、いくつか話したうちの一つです。

 

前の文と同じように、省略されている語句を補うことができます。

(I) maybe (ask you that) you could take her out ...

となります。補ってみると、

「お前に、彼女を外へ連れ出すように頼むことになるかもしれないよ」

となります。

 

で、どこへ連れて行ったらいいか、ですが、

モーガンさんの農場の周りで、人があつまるところ」、

つまり、レストランかカフェということになるのでしょうが、

ここでファラディ―さんは、農場 farm に関連して、stable 家畜小屋 という言葉をつかい、次の冗談の伏線を張ります。

 

ということで、この文は

モーガンさんの農場の近くの、どこか静かなところに連れていってあげたらいいよ」

と、訳しておきます。

 

 

159番です。

 

'Maybe you could keep her off our hands, Stevens.

 

と、今回はこれだけです。

 

could は仮定法ですね。ファラディさんが想像していることを表しています。

(I) Maybe (ask you that) you could keep her off our hands, Stevens.

と、省略されているものを補ってみると、分かりやすくなります。先頭は、1ではなくて、i の大文字です。

「お前に、彼女を我々の手の届かないところへ連れ出すように頼むことになるかもしれないよ」

と直訳できます。

 

keep her off our hands 「我々の手の届かないところ」というのがミソですね。

そこは、「お前の手の届くところ」であるから、「じゃあ、その手をどうする?どう使う気だ?」と冗談へ発展しそうです。

 

「奥様を手の届かない場所に連れ出してもらうかもしれんよ」

としました。

 

 

158番です。

 

'God help us if she does come,' Mr Farraday replied.

 

英語では会話部分は、まず会話の一言を書いて、それを引用符でくくり、それを言った人を明示して、その後に、続きの言葉を書くというのが鉄則のようです。

ここでも、この文の後に、ファラディさんがの言葉が引用符でくくられて続いています。

それぞれは短い文ですが、今まで通りにピリオドごとに区切って、ひとつずつ進むことにします。

 

さて、ダーリントンの邸館に宿泊するような人なら、奥さんを同伴するのは当然だと思うので、聞くこと自体が不思議ではあるのですが、カズオ・イシグロはきわどい冗談を言う場面を設定したかったということかもしれません。

 

「もちろん構わないよ」と肯定的に答えるか、

「それは困ったな」と否定的に答えるか。

このどちらかでしょうが、この先のファラディさんのセリフ次第ですね。

しかし、神が助けてくれる God help us 、と言っているのですから、困ったと考えている可能性の方が強そうです。

それはともかく、本来ならさっさとこのセリフ部分は片付けてしまうところでしょうが、あんまり先に進んでしまうと講座と乖離してしまうので、ゆっくりと行きます。

 

さて、God help us ですが、三単現の規則にはあたらないのでしょうか。

原文を確認しましたが、help に s はついていませんでした。

また、if she does come の does は強調の do ですが、これは三単現で does に変化しています。

ミスプリでない限り、一つの文に二つのケースが同時に存在しているわけで、不思議ですが、god の場合、これはありなのでしょう。

 

とりあえず、ここでは

「それは困ったな」と、ファラディ様はお応えになりました。

と訳しておくことにします。

  

 

 

157番です。

 

For instance, I once had occasion to ask him, if a certain gentleman expected at the house was likely to be accompanied by his wife.

 

前の文ではスチーブンスは、ご主人がおっしゃったことで驚かされたことは一度や二度ではない、と言っていました。

この文は、どう驚かされたのかという例なわけです。

まず、分解してみます。

 

① For instance,

② I once had occasion to ask him,

③       if a certain gentleman expected at the house

                      was likely to be accompanied by his wife.

 

①は副詞句です。全体にかかっており、「例えば」となるのですが、実際には、この文だけではなく、次の文にも及んでいると考えた方がよさそうです。

②が、この文の中心で、主節です。「あるときご主人様にお尋ねしたことがございます」です。直訳すれば、「かつて彼に聞く機会があった」です。

 

そこで、そのお尋ねしたことが、③という if 節になっています。ブログ幅の関係で二行になっていますが、②の主節の目的語(つまり目的節)として働いています。したがって、if は関係代名詞 that の代わりと考えた方がいいですね。

the house は、ダーリントンの邸館のことです。expected は過去分詞で、後ろから gentleman にかかっています。

「この邸館に(お泊りを)お望みの、ある紳士が」となり、つまり③の if 節の主語部分です。

 次の行は、その主語部分に対する動詞と補語部分ということになり、

「奥様をご一緒なさりたいと望んでおられる」

となります。

日本語は、関係を表す言語です。主人のファラディさんと執事のスチーブンスとの関係、更に、そのスチーブンスとお客様の関係を、適切な敬語で表すと自然な日本語になると考えています。

こういう日本語の原理については、もっと議論の必要があると考えています。

 

というところで、まとめて

 「例えばこんなことがございました。お客様が奥様をご一緒したいとお望みでございますがと、お尋ねしたところ」

と次の文に続けるような訳にしたのですが、次の文次第で変えた方がいいかもしれません。