199番です。

 

Such difficulties as these tend to be all the more preoccupying nowaday because one does not have the means to discuss and corroborate views with one's fellow professionals in the way one once did.

 

久々に長い文が来ました。分解してみます。

 

① Such difficulties as these tend to be all the more preoccupying nowaday

② because one does not have the means to discuss

③ and corroborate views with one's fellow professionals in the way one once did.

 

①が主節です。Such difficulties as these が主語です。複数形です。

動詞は、tend to be です。動詞句になっています。tend不定詞 to be がくっついていると考えてもいいと思います。to be preoccupyng と進行形になっています。

tend は自動詞です。この自動詞ってやつはピンとこないのですが、なんとなく状態を表すと考えています。「~する傾向がある、~しがちである、の方向に向かう、至る」などの訳が辞書には出ています。

all the more は熟語です。「それだけにいっそう」ですが、197の文でも出ていました。スチーブンスの口癖に近いもののような気がします。

「最近は、これらのような そういう難しさが それだけにいっそう ますます 占めるようになって きている 傾向がある」

こんな感じでしょうか。

「占めるようになってきている」では、何のことかわかりませんね。

これは、時代の流れをスチーブンスが嘆いていると考えた方がいいです。つまり、昔は仕事の上で、困ったことや悩み事が出てきたときには、誰か先輩に相談できたが、そういう機会がや方法がなくなって、だから、そういう悩みを解決して減らすことができない・・・と言っているのです。

ということで、「増えてきている」と訳してほうがいいように思います。

要するに、ファラディさんが冗談のハードルを上げてきているようで、困っているのだが、昔ならだれか同業者がこの邸館に雇い主とともに現れて、その先輩や討論し、ともに考えることができたが、今は一人でスチーブンスはますます苦しまなきゃならない、と恨んでいるのです。

が、それもこれも何でもいいから冗談を言わないからだと思うのですが。

うまい冗談を言いたい気持ちはよくわかるのですが、冗談が下手なら、向こうも言ってこないと思うのですがね。

そういうのがスチーブンスの人物像で、それをもとにしてカズオイシグロの小説が続くわけです。読者のイライラは実は向こうの思うつぼなわけです。

 

②はそういうことの理由のようですが、

「誰も 討論する 方法が ない から」

と直訳できます。

means は、「方法」とか「手段」とかの意味であることに注意してください。

さらに、and でつながれて③も続きます。

つまり、討論する機会があった時には、反対の意見でお互いつぶしあうばかりでなく、賛成の考えでお互い補強しあうこともできた、という感じです。コラボらしくなりますね。

②の one も、③の one も、誰か、でいいと思いますが、具体的には、召使いとか執事とか、スチーブンスの同業の先輩後輩同輩のことです。

②の have はそのまま not で否定できるはずですが、ここでは助動詞 does を使って does not で否定しています。くらべてみてください。三単現で have は has に変わります。

  because one  does not have  the means to discuss

  because one  has   not           the means to discuss

③の views は、my とか one's を補って、my views または one's views とすると分かりやすいと思います。「自分の考えを補強する」となります。

何で補強するかと言えば、「先輩がかつてしてきた方法で」「自分たちのやり方を補強する」となります。

つまり、

「意見を交換する機会がなくなってしまったし、先輩方がしてきたやり方を取り入れる機会もなくなった」「から」

となりそうです。

 

というところで、続けて訳せば

「こういう 厄介だと 思われることが 最近では 多くなったように 思われるので ございますが、それは 先輩方のやり方を見習ったり、また 教えられたりする 機会が 失われたからだと 思われます」

となります。

 

 

 

 

 

 

198番です。

 

Be that as it may, since that first witticism concerning the gypsies, I have not been able to think of other such witticisms quickly enough.

 

今回は短いですね。分解のしようがないところですが、コンマで分けることができますね。

と思ったのですが、本文をまるまる一行写しそこなっていました。赤字の部分が抜けていました。申し訳ありません。witticism が二つあるのですが、そこで間違えたようです。

上記は赤字を含めて正しい原文です。

改めて分解します。

 

① Be that as it may,

② since that first witticism

③                          concerning the gypsies,

④ I have not been able to think

⑤               of other such witticisms quickly enough.

 

抜けていた部分を補って分解してみると、文法的要素がしっかり揃って、見通しが良くなりました。

④⑤が、中心の文です。主節ですね。

①は従属節というわけです。

これはいいのですが、注意すべきは②です。since がある上に、途中に that があって、それが関係代名詞に見えてしまうのですが、これは単なる指示代名詞なのです。「あの」とすればいいのですが、あとでもう一度触れます。

③は first witticism を形容している現在分詞です。

 

①は倒置形になっています。

as it may be that,

が本来の形です。be that を強調したいというのが動機です。

「それだからこそ」が標準の気持ちだとすると

「そうはいっても」という感じでしょうか。

「それ」とか「そう」というのは、前の文で、ファラディさんがスチーブンスに対する要求のハードルをじわりじわりと上げていると言っていた、そのことです。

スチーブンスにしてみれば、要求が厳しくなるのは分かるけれど、とても追いつけません、ということですね。

 

②の since は、「して以来」ではなくて、「だから」とか「である以上」の方がよさそうです。「ので」もありですね。

内容的には、except という感じです。つまり、ジプシーの冗談を除いて、他のものは思いつかなかった、とすると、意味がつながってきます。

「最初に思い付いた あの ジプシーについての 冗談を除いて」

という直訳ができそうです。

途中の that が関係代名詞のように見えてしまうのですが、指示代名詞です。「あの」と訳せばいいようです。少し前の、ファラディさんをほったらかしにしたジプシーとカラスの冗談を指しています。

 

 quickly enough は、冗談を言ったとたん、すぐに quickly、冗談だとわかり、なおかつ、十分に enough 大笑いできる、ということ、です。つまり、

「最初に言う冗談はすぐにわかり、笑えるものでなければならない」

となります。

これは難しいことです。

最初だけに特に難しい。カラスの冗談は、聞きなおされてしまったくらいです。

こういう出口が自分では見つけられないような困難な事態になったとき、昔なら…と、スチーブンスは以前のダーリントンの邸館の状態を思い出すわけで、これから以後は,

昔の思い出話として脱線することになります。

 

が、まずは、今回は

「それだからこそ、最初の冗談はすぐにわかり、面白いものでなければなりません」

としました。

 

④は 現在完了の否定形です。have は not をつければ否定形になります。

be able to を完了形にして、更に、否定形にしています。

「思い付くことができなかった」

ということです。

⑤は、「すぐには 他の 冗談を」となって、④に戻って続いていきます。

 

ということで、

「そう申されたところで、あのジプシーの冗談以外には 私には思いつくことが できなかったので ございます」

と訳しました。

 

 

197番です。

 

Indeed, his increased persistence of late may even be my employer's way of urging me all the more to respond in a like-minded spirit.

 

関係代名詞も挿入句もなさそうで、比較的シンプルな文です。助かります。それでも分解はしますが。

 

① Indeed,

② his increased persistence of late

③                           may even be

④                                  my employer's way of urging me

⑤                        all the more to respond in a like-minded spirit.

 

これくらいでしょうか。⑤はもっと前置詞で区切ることができそうですが、ここまでにしましょう。

②③④が一つの文です。②が主語、③が動詞、④が補語で、つまりこの三つでSVCの文型というわけです。

②「最近の ファラディさんの増大しつつある しつこさ」は

③「本当に かもしれない」

④「ご主人様の 私を鼓舞する やりかた」

と直訳できます。

滑らかにすると、

「ファラディ様は このところ なんとか 私に 仕向けようと なさっておいででした」

としておきます。

 

⑤の all the more は熟語のようで、「それだけでいっそう」と辞書に出ています。

「それだけでいっそう 自分の好みに合った 精神で 返事をするように 」

となります。

つまり、①を含めて訳せば、

「もっと自分好みの気持ちで冗談の返しをさせたいものだとのお考えを、確かに募らせておいでだったのでしょう」

としました。

 

 

 

 

196番です。

 

But at the same time, I cannot escape the feeling that Mr Farraday is not satisfied with my responses to his various banterings.

 

スチーブンスはまだ別の感情を持っているようです。

が、まずは分解しましょう。

 

① But at the same time,

② I cannot escape the feeling

③                               that Mr Farraday is not satisfied

④                                   with my responses

⑤                                   to his various banterings.

 

②が中心になる文です。SVOという文型です。

Oは目的語で、普通は「~を」と訳すところですが、動詞が escape だと「~を逃げることができない」と妙な日本語になってしまいます。「~から逃げることができない」とやるところですね。

feeling を説明するのが、③以下です。

つまり that は関係代名詞で、先行詞が feeling になります。

後ろの④⑤から前へ戻って訳していけば良さそうです。

④⑤はどちらも前置詞句ということで、④は私の返事に対して、⑤は彼の様々な冗談に対する、となって、③に戻っていけばよさそうです。

③まで続ければ、「ファラディ様の様々な冗談に対する 私の返事に対して ファラディ様は 満足なさって いない」となります。

②は、そういう感情から逃げることはできなかった、となりますね。

最後に①で、「しかし、同時に、」と始めて、③以下の訳を続ければいいということになります。

 

前の文は、もっと一生懸命に冗談を考えるべきだった、と言っていました。

そうなのですが、言ったところで、おそらく満足してはもらえない、とも思うわけですね。

 

ということで、

「しかし、それと同時に、私が精いっぱいお応えしたところで、ご主人様は満足なさらないという気持ちから 逃れることは できませんでした」

としました。

 

へまが許せないのですね。ややこしいもんです。

 

 

 

 

195番です。

 

so discouraging that I must admit I have not really made further attempts along these lines.

 

また discouraging が出てきました。セミコロンで続いており、この文は前の文の一部で、今回の文はその言葉を補足しているものです。

つまり、前回「難題」と訳したのですが、それが良かったかが試されます。さて・・・

 

文の構造としては、so ... that ~ が目立ちます。

「とても ... なので ~ 」とか「~ なほど ... 」と訳すのがパターンですが。

それを軸に訳せばいいようですが、とりあえず分解をしてみます。

 

 

① so discouraging that

②                         I must admit   (that)

③                                 I have not really made further attempts

④                                           along these lines.

 

④から訳してくればよさそうです。これらのラインに沿って、というのですが、ラインとはファラディさんの冗談路線のことですね。ところがスチーブンスは、そんなことは職務としては認められない、という路線だったわけですね。この勝負は明らかですが、スチーブンスは往生際が悪いようです。

③④は、「ご希望に沿うように もっと努力をしてこなかった」

となります。

訳を整えれば、

②の後ろに that を補いました。関係代名詞 that の内容が③④となります。

「(ということを)認めければならない」

となって、それが ~ なほど ... ということで、... が「難題」ということになりますね。

 

「認めなければならないほど 難題でした」

となりますが、ここは「難題とは 」と始めた方が訳しやすいようです。

 

ということで訳文を整えれば、

「難題とは ご希望に沿うように もっと努力をすべきだった ことを 認めなければならない ことでございますが」

としました。

「難題」でとりあえずよさそうですが、もっといい訳がありそうです。

 

 

 

 

 

194番です。

 

It was, then, a most discouraging start to what may in fact be an entirely new sort of duty required of me;

 

最後はセミコロンになっていますが、いったんここまでです。

 

分解してみましょう。

 

① It was, then, a most discouraging start to

② what may in fact be an entirely new sort of duty required of me;

 

分解と言っても、この文に関してはこれくらいです。細かくしすぎるのも、かえってわからくなりますから。

 

①の It は仮主語などではなく、前の文でスチーブンスが説明しないで棚上げにしたことを受けます。ちゃんとファラディさんに説明しておけば、一件落着となったはずなんですが。

discouraging は、落胆させる、がっかりさせる ですが、泥沼にはまっていく感じですね。

「それは、すなわち、さらなる困難さ の始まりでございました」

 

後半は、その困難さの説明です。

in fact は挿入句で、what may be an entirely new sort of duty required of me という文になります。

what は、先行詞を含む関係代名詞です。

また、equired の前に、that を補ってやれば、私に要求される となって duty にかかっていくことが分かります。

ということで、

「実際に、私に要求される まったく 新しい 種類の 義務 であるかもしれない」困難さ と続いていきます。

 

まとめると、

「そうしたことは、新たな難題の始まりで、私に全く新しい義務が課せられたことになったのでございます」

としました。

 

193番です。

 

In fact, I decided it best to call a halt to the matter and, pretending to remember something I had urgently to attend to, excused myself, leaving my employer looking rather bemused.

 

ややこしい文のように見えますが。分解します。

 

① In fact,

② I decided it best to call a halt to the matter

③ and,

④ pretending to remember something

⑤ I had urgently to attend to

⑥       , excused myself,

⑦                  leaving my employer looking rather bemused.

 

こんな感じに分解できます。時間の経過に応じて、状況が変わっていくのですね。

and は同時に起こっていることを指しているのではなくて、その後に起きることを言ってるのです。「それから」あたりですね。

 

まず今の状況は、スチーブンスがやっと思いついた冗談を言ったのですが、ファラディさんには通じず、もう一度言ってくれと頼まれた瞬間に、この冗談が通じないばかりか、解説しても意味がないし、その言い方も分からないことが分かって、退散するに限るなと意を決している、というところです。

こんなややこしいことを、カズオ・イシグロはうまく書いてるものですと感心してしまいますが。

 

さて、①は、冗談を解説してもしょうがないと思った、その時の気持ちを表している言葉ですね。「実際問題として」という気分でしょうか。タメぐちなら「だからー」という感じですね。

②は、SVOCの文型で、Oの真の目的語は to 以下で、to call の方です。

to call a halt は、停止を呼ぶ、ですから、停止に来てもらう、という感じでしょうか。そこから、停止にする となるのでしょうか。to the matter が続くと、問題の所へ停止に来てもらう ということで、問題を棚上げする あたりになりそうです。

 

③の and は、そのあとで という感じです。何かが起きて、それと同時に、ではなくて、その後で と時間がたっていくわけです。

 

④は分詞構文です。副詞の働きで次の⑤の had urgently to を修飾します。「何かを思い出したふりをして」ですね。

⑤は本体の文です。 had to の間に、副詞 urgently がはまり込んでいますが、have to ねばならない の過去形です。「急いで向かわなければならなかった」となります。

⑥は挿入句ですが、言い訳ですね。「失礼して」です。

⑦も分詞構文です。副詞の働きで、今度は attend の方にかかっていきます。「ご主人様を残して」となります。

looking rather bemused も分詞構文です。今度は形容詞用法で、my employer という名詞にかかっています。「どちらかというと当惑しているようにみえる」 ご主人様を残して となります。

 

ということで、まとめて、

「 結局、このことは棚上げする方が最善と考え、申し訳ないとは思いましたが、何かを思い出しふりをして、ご主人様の当惑をそのままに 急いで部屋をあとにしました」

としておきます。