2 ジュリアス・シーザー 2

一幕一場 ジュリアス・シーザー、始まりの部分

  住民たちが町中へ繰り出すのを、警備役人に止められる場面の続きです。

 

MARULLUS                                                 マララス

  Where is thy lether apron and thy rule?      じゃあ、皮の前掛けに物差しはどこだ。

  What dost thou with best apparel on?         なんで、一張羅なんか着ておる。

  You, sir, what trade are thou?                       で、そこのお前さんよ、仕事はなんだ。

 

SECOND CITIZEN                                        住民2

  Truly, sir, in respect of a fine workman.        仕事っつーもんじゃねぇでがすよ。

  I am but, as you would say, a cobbler.            まあ、いわば、底なぁしってとこでさぁ。

 

MARULLUS                                                     マララス

  But what trade art thou?                                  なんだと、仕事は何だと聞いておる。

  Answer me directly.                                         こっちを見て、答えるんだ。

 

SECOND CITIZEN                                             住民2

  A trade, sir, that, I hope, I may use                    ですからね、底のあたりをですが、

  with a safe conscience,                                      そこそこ気を付けてですね、

  which is indeed, sir, a mender of bad soles.      そこが底だってように直すんでさぁ。

 

赤字になっているところは、敬関詞です。

四つとも、sir ですが、警備役人と住民がそれぞれ、相手に対して、敬意とまでは行かないと思うのですが、波風が立たないように、言葉尻をつかまれないように使っています。

「お前」「おまわりさん」ということですが、呼びかけるのではなく、そういう気持ちを文の中に訳し込むといいと思います。

ただし、最初の sir は住民1から向きを変えて話しかけているので、呼びかける調子でもいいと思います。

 

as you would say の would は、仮定法です。

仮定法は、現実ではなく、頭で考えたことを表します。

ここでは、住民2が警備役人が私を見て、仕事はこうだと考えていることを想像していることを表しています。

「警備役人のあなた様は、お前は何かの職人だろうと言うと想像しているでしょうが、どっこい私はわらじ職人ですよ」となるところですが、

「いわば」と訳してみました。

 

but は、強調というか、口ごもった感じでしょうか。

 

thy は、「貴様」とか「お前」ということになると思いますが、「貴」に「様」ですから、本当は最上の敬称かも。

 

directly は、「直接に」ということではなく、住人2に向き直って尋ねた警備役人のマララスをまっすぐに見て答えろと、命令口調で指図しているもので、「こっちを向いて」とか、「ちゃんとこっちを見て」という感じです。

 

で、それに対する住民2の返事は、しどろもどろ、というか、たどたどしい、といった方がよく、話すことに慣れていない朴訥な底直し職人、靴直し職人らしく、言い添えやら、言い換えなど、挿入句、節が多く、文の流れがつかみにくいところです。

 

書き直してみれば、こんな感じになるでしょうか。

  A trade    ( which )  is indeed a mender of bad soles.

        II

      that I may use with a safe conscience,   sir,   sir,  I hope 

「傷んだ底を直すのが仕事ですが、できるだけ丁寧にやろうと心がけていますよ」

という気持ちだろうと想像します。

which は、A trade と同格で、挿入部分が多かったせいで離れてしまったので、言い換えたものと考えます。

that は、A trade を先行詞とする関係代名詞です。

I hope は、この部分のことを望んでいてもいいし、全体のことを望んでいると考えてもいいと思います。

 

なお、 sole (底)は、soul (性質、根性)にかけてあり、警備役人の根性を直してやるという皮肉めいたものが込められていると思います。