34番の文です。

 

Nevertheless, I think you will understand that to one not accustomed to committing such errors, this development was rather disturbing, and I did in fact begin to entertain all sorts of alarmist theories as to their cause.

 

nevertheless   それにもかかわらず それでも やはり

accustom      慣れさせる なじませる

commit       犯す 託す 委ねる 言質を与える

development    発達 発育 成長 発展 開発 展開 現像

disturb      かき乱す 混乱させる

as to       については に応じて

entertain     楽しませる 慰める 受け入れる 考慮する

alarmist     人騒がせな(人) 心配性の  注意すべき

alarm         驚き 心配 警報器  はっとさせる おびえさせる

theory     学説 理論 理屈 推測 定理

cause       原因 理由 根拠 関心事 話題

 

長い文ですね。これが母国語の人は頭から読んで理解できるということ自体が理解できませんが、という言葉が母国語の人はこの文が理解できるのだろうか、という意味のないことは考えないことにして、

まずは並び替え作戦で行きます。

 

Nevertheless,

      I think you will understand that

                      to one not accustomed to committing such errors,

                                                       this development was rather disturbing,

and I did in fact begin to entertain

           all sorts of alarmist theories

                   as to their cause.

 

とはいうものの

 私はあなた方が、次のことを理解すると思います

     そういう失敗に対して慣れていない人に対して

         この展開がむしろ混乱させるものであったこと

そして、実際のところ私は考慮し始めていた

         すべての注意すべき理論を

                  それらの原因としての

 

と、ついでに直訳も同じパターンで並べてみると、なんとなくわかるような気がしてきます。もう少し丁寧に見ていきましょう。

 

I think you will understand that は、仮定法ではなく、直説法になっています。読者が考えていることを、事実として断定しています。いつものスチーブンスの口癖にはない、非常に珍しい言い方だと思います。

to one not accustomed to committing such errors, では、one は、人で、どういう人かというと、not accustomed な人で、かつ to committing such errors な人でもあると、二つの語句が後ろから形容しています。

「不慣れのせいで、失敗をしてしまう人」ですね。

そういう人に to 対しては、とっては、this development この発展、とはいうものの、思いがけない変化は、rather disturbing, むしろ煩わしいもの was でした、と原文は続いていきます。

このダーリントンの邸館の役割が、時代の変遷とともに大きな変化を受けていることがうかがわれるのですが、そういう変化に簡単に慣れる人もいれば、なかなか慣れることができない人もいるわけで、慣れない人にとっては変化というのは煩わしく、ペースを乱されると感じているのでしょうね。

そして、それが失敗につながる要因になっていく、ということですが、負のスパイラルなどと表現したりしますが。

 

and I did in fact begin to entertain と続きますが、did は、強調の do の過去形 did です。さらに in fact で強調していますが、普通に書けば、and I begun to entertain です。考え始めた、となりますね。

 

で、何を考え始めたかというと、all sorts of alarmist theories についてです。

注意すべき言葉は、alarmist です。alarm するもの、です。ist は、最上級のつづりに似ているので、勘違いしてしまいそうですが、pianist とか stylist の ist です。er でもよかったと思いますが、alarmer あらーまぁ、は日系人としては避けたかったかもしれません。

それはともかく、アラーム音を発しているものという意味です。ここでは目で見てなくても、耳には音が勝手に向こうから飛び込んでくる、ということを表しているのです。目を皿のようして見張っていないとわからないということではなく、ぼーっとしていても警告音ならすぐわかるという状態を表しています。 

さらに、theory にもいい訳語を考えたいところです。現れている形から、論理的にたどっていくと、答えとして本当の形にたどりつく道筋という感じなのですが。

 

as to their cause. は、それらの原因として、なのですが、their は、そのちょっと前の such errors で、そういう失敗の原因として、となります。

 

さて、スチーブンスはどうしてこんなことを言ったのか、この前の状況をもう少し整理してみましょう。

 

スチーブンスは、執事としてイギリス伝統のダーリントンの邸館で働いていた。

第二次大戦後、政治体制が変化し、邸館の役割も変わった。

そこの主人が、新しくアメリカ人のファラディさんに代わった。

それを機会に邸館に勤務する職員が少なくなった。

邸館では、今まで経験したことがない失敗が続くようになった。具体的にどんな失敗なのかは書いてありませんが。

 

というわけで、経験が豊富な執事としては面目ないじゃん、困ったな、一人で二三人分働いてくれる人はおらんかいな、と考えているところへ、

一通の手紙が届きました。それが、ケントンさんからでした。

 

こんな状況でした。

 

ということで、それに合わせて、言葉を選んでいけば、訳はできそうです。

 

「私は、あなた方が理解してくださると信じています」

「慣れていないから、そういう失敗をしてしまう」

「こういう変化にうまく対応ができないで」

「実際に考え始めているところでございます」

「気にかかる可能性はすべて」「どんな些細な兆候も」

「それらの原因として」

 

などをとりあえず選び出して、それをくっつけることにします。

 

「とは申せ、不慣れが生んだ不手際に違いないとお考え下さると推察するのでございますが、実際に、それらの原因として、あらゆる道筋をたどって考えるべきだと思い始めたところでございます」

 

 と訳してみたところでございます。