58番に行きましょう。
But he would be much obliged, he repeated, if I could 'give it a go with four'.
oblige 喜ばせる 要望を取り入れる
仮定法の見本のような文です。帰結文の would と、条件文の could が、きれいにそろっています。
念のため、分解して並び替えてみます。
1 But he would be much obliged,
2 he repeated,
3 if I could 'give it a go with four'.
こんな感じになるでしょうか。
1行目の But から始めて、2行目 he repeated,で、何を繰り返したかというと、3行目の if 節と、1行目の帰結文というわけです。
繰り返した、という単語を使ってますが、念を押した、という方があってますね。
3行目は、アポストロフィで囲ってありますが、スチーブンスは、意外とお茶目なのでしょうか、それとも冗談を練習しているつもりなのでしょうか、不思議な言い方をしています。
それは、通常動詞でしか使わない go を名詞で使っていることです。しかも、不定冠詞の a がつけていますから、普通名詞として、数えられるものとしています。名詞として扱うにしても、集合名詞とか、抽象名詞とかにして、不定冠詞など付けないところなのですが、そういうルールに触れているところが、冗談ぽいわけで、そこがクオテーションの意味だと思います。
もっとも、これはストーリーには無関係で、文体の面白さの話です。
「もし、私が『たった四人でそれに 動き』を与えることができれば」となるでしょうか。
文体といえば、ここは間接話法になっています。
直接話法であれば、I は I で、he は he なのですが、間接話法は、代名詞がそのままではないことがあるので、注意が必要です。
ここでは、そんなに気を付けなくてもよさそうで、1行目、2行目の he はファラディさんで、3行目の I は、スチーブンスです。
ためしに直話法で書いてみると、
But " I would be much obliged," he repeated, " If you could 'give it a go with four' "
となります。
と、書き直してみて、気がつきました。
先ほど、面白い言い方で、スチーブンスは冗談の練習でも、と思ったのは、そうではなくて、実はファラディさんが言った言葉だったのですね。
やっと、納得です。
1行目は、受け身になっていますから、彼は喜ばされるわけです。
3行目がその条件で、「そうだったら、とてもうれしいのだが」と訳せばいいことになります。
さて、これで全体をつなげば、
「とは申せ、四人でできるなら、それに越したことはないと、念を押されたのでございました」
と訳せます。
「とは申せ、四人でできるなら、『それに越したことはねぇんだ』と、念を押されたのでございました」
と、ファラディさんの口調をくだけたものにしてもいいかもしれません。