78番です。
I had then, over those days of struggling with staff plan, expended a significant amount of thought to ensuring that Mrs Clements and the girls, once they had got over their aversion to adopting these more 'eclectic' roles, would find the division of duties stimulating and unburden-some.
expend 費やす 使い果たす
ensure 保証する 確実にする 守る
aversion 反感 嫌悪
get over 乗り越える わからせる 理解させる 渡らせる
adopt 採用する 身につける
eclectic 取捨選択する 折衷的な 多方面にわたる
stimulate 刺激する 励ます
undurden 荷を下ろす 取り除く 悩まない
並び替えてみます。挿入部分をはっきりさせると、本体がはっきりしますね。
1 I had then
2 , over those days of struggling with staff plan,
3 expended
4 a significant amount of thought
5 to ensuring
6 that Mrs Clements and the girls,
7 once they had got over their aversion
8 to adopting
9 these more 'eclectic' roles,
10 would find
11 the division of duties stimulating
12 and unburden-some.
こんな風に分解してみると、新しい発見があります。
カズオ・イシグロは、適当に書いているのではないようです。
456行、789行は同じパターンで繰り返されていますし、
123行と101112行も同じパターンです。
しかも、それは、
struggling、ensuring、adopting、stimulating と -ing を中心にして、3行ずつの構成になっています。
最後の言葉は、unburdening でもよさそうなのに、unburden-someとわざわざ言葉を作っているくらいです。ここを -ing で揃えると、この部分の音の響きは合うのですが、全体を通したときに最後の響きが残りすぎるのでしょうね。
結果的にそうなるように、挿入部とかも並べているように思います。もし、読むときには、この切れ目でブレスして、読むといいかもしれません。
言葉の並びと言葉の響きにこだわっていると感じました。ノーベル賞になる理由の一つです。
言葉の並びと言葉の響きは、とても日本語に訳し移すことは不可能ですが、まあ、訳しましょう。
1 I had then
2 , over those days of struggling with staff plan,
3 expended
まずはじめの3行は、1行目が主語、と、動詞部分の前半、です。本来は had then expended となっているところへ、 , over those days of struggling with staff plan, が挿入されています。
「私は管理計画に苦闘し何日も費やしました」
と、訳しました。
4 a significant amount of thought
5 to ensuring
6 that Mrs Clements and the girls,
さて、4行目は、実は3行目の expended の目的語になっています。文型的には、
I had then expended a significant amount of thought というSVOの文です。
この4行目だけでは、
「重大な量の考えを」となりますから、「ありとあらゆることを考えて」あたりでしょうか。
5行目の to ensuring は、ちょっと変則的です。普通なら、to ensure と不定詞を使うところですが、響きの都合で動名詞になっています。
名詞なら冠詞が必要ですが、ここは省略されています。そして、名詞ならではのことに、次の6行目の関係代名詞 that の先行詞になっています。
先に10行目から考えます。
10 would find
11 the division of duties stimulating
12 and unburden-some.
その関係代名詞 that が作る節は、6行目Mrs Clements and the girls が主語で、
動詞は10行目の would find です。この would は仮定法ですね。頭で考えたことで、目で見えることではないことです。
また、その間に、789行が挿入されているのです。この挿入部分は、あとで訳すことにしましょう。
で、10、11のこの2行が、 would find の目的語になっているのですが、6行目の主語を入れて訳すと、
「クレメンツさんと二人が、職務の領域が面白くて悩まなくてもいいものだと、気づく」
となります。
7 once they had got over their aversion
8 to adopting
9 these more 'eclectic' roles,
そこで、挿入部分は、
once は、when の代理で、「ひとたび、~する時は」という感じですね。
9行目、these more 'eclectic' roles は、職域の垣根を越えたということですが、クオテーションがついた 'eclectic' になっていますから、「いわゆる」と添えるのが、スチーブンスに対して失礼にならないかもしれません。スチーブンスには違う考えがあるのでしょう。
いずれにせよ、この挿入部分の主語は、they = Mrs Clements and the girls ですが、動詞は、had got to adopting となります。over their aversion が飛び込んでいると考えればいいようで、
「嫌悪をこえて」ということですから、「好き嫌いを言わずに」という感じか、あるいは「先入観を捨てて」というのも、ありかなと思います。
つまり、
「先入観を忘れて、いわゆる多方面の職務を、いったん受け入れてくれさえすれば」
というわけです。
で、そういう状態であれば、
「彼らが、それぞれの職務の領域が悩むことではなく、かえって面白さ」を
「見つけることができるように」なるはずだ、というわけですね。
これで、大体見終わったので、つないでみます。
「私は何日も管理計画に向き合い、クレメンツさんと若い二人が安心できるような計画の立案に相当な時間を費やしました。彼らが今までしたことがない職務に尻込みすることなく、むしろ、望みや楽しみを見つけてくれるように考えをめぐらしたのでございます」
と、教室では訳しました。
言葉の並びとか、言葉の響きとか、もっと原文の意図をくみ取った訳がありそうです。