133番です。
Knowing this to be his likely mood when I brought in the tea yesterday afternoon, and being aware of his general propensity to talk me in a bantering tone at such moments, it would certainly have been wiser not to have mentioned Miss Kenton at all.
長い文ですね。やはり分解してみます。
① Knowing this to be his likely mood
② when I brought in the tea yesterday afternoon,
③ and being aware of his general propensity
④ to talk me in a bantering tone at such moments,
⑤ it would certainly have been wiser
⑥ not to have mentioned Miss Kenton at all.
きれいに分解できました。
①と③が、~ing で始まる形で対句になっていて、仮定文の変形になっています。
堅苦しいスチーブンスにしては、正式の仮定法の文ではないのは不思議です。が、スチーブンスにはこういうぬかったところが性格的にあるのだと、読者に印象付けようというカズオ・イシグロの文体の作戦かもしれません。
⑤が帰結文というわけですね。そこに、スチーブンスのうかつさというか、近視眼的な所が現れています。
①は、If I had knew this to be his likely mood と、if 節に書き換えることができます。
肝心なのが、this の内容です。前の文で書き表した内容になりますが、ファラディさんが執務の間に、どういう気持ちになっているか、ということです。
likely は、~しがちな、ということになると思いますが、目上あるいは、立場が上の人に対していうときには、どういう日本語を使うのか、を考えることになりそうです。
とりあえず直訳すれば、
「もし、彼がしがちな雰囲気がこういうことだと知っていたならば」
と、いうことです。
②は、単純にそれがどういうときかを説明しています。
「昨日の午後に、お茶をお持ちしたとき」
です。
③も、if 節に書き換えてみれば、
if I had been aware of his general propensity となります。
「彼の一般的な性癖に留意するならば」
と直訳できます。
④は、when とか as を使って、②のパターンで書くことができます。つまり、
when (as) he would talk to me in a bantering tone at such moments です。
この方が対句としては②と形がそろうのですが、ここはあえて不定詞としています。
というのも、むしろ⑥の不定詞の否定形にあわせることで、こちらの意味を際立たせる効果が出てきます。やはり、カズオ・イシグロの文体の工夫が光っていると思います。
「こういう機会には、冗談交じりに私に話すための」と、不定詞は形容詞用法として、propensity にかければいいわけです。
⑤の it は、形式主語です。真主語は、⑥の不定詞句になります。ただし、この不定詞が否定形になっているので、日本語に訳すときには、なんとなく厄介です。
「ケントンさんのことをこれっぽっちも言わないことが、より賢いことだったのです」
となります。
ということで、全体は
「昨日の午後、お茶をお持ちしたときにご主人様は気分を変えるお気持ちになっておられ、そんなときには冗談の一つでも飛ばす気分になられていることにもっと気を付けるべきでございました。つまり、ケントンさんのことをこれっぽっちも言うべきではなかったのでございます」
としました。