142番です。

 

'My, my, Stevens. A lady-friend. And at your age.'

 

ファラディさんのセリフです。やっと、カモを捕まえたという喜びにあふれています。

いままでスチーブンスは格式張ってばかりで、冗談を毛嫌いして、というか、そういうものの価値とは無縁の生活をしてきていたのが、ついに口を滑らしたか、という気分なんでしょうね。

 

ここはピリオドが三つあり、すなわち三つの文ということになるのですが、まとめてやりましょう。まず三つに分けてみます。

 

① 'My, my, Stevens.

② A lady-friend.

③ And at your age.'

 

①は、oh とか ah とか言わずに、my, my と来るんですね。

日本なら「おい、おい」とか「おや、おや」という感じですが、「お前、正気か」や「まじか、お前」などもいいかもしれません。

 

という具合に訳を考えると、英語では具体的なことは言ってないように思います。

実際の場面では、お互いの発する言葉のほかに、相手の顔や体の動きも見えているわけで、そういう言葉にならない動き、つまり、目から入る映像が言葉の意味を補っていると思います。

とすれば、そういう言葉以外の要素を訳の中に入れ込むというのがいいのかもしれません。

「おい、おい」とか「おや、おや」というのは、具体的なことは表現しておらず、そこは読者の判断にゆだねています。英語の原文に近いかもしれません。

「お前、正気か」とか「まじか、お前」となると、具体性が出てきており、読者の判断の余地がなくなってしまうことが、いいかどうかという問題になります。

 

訳というのは、どれだけ厳密にしたつもりでも、そもそものものとは違ったものになるという証拠でしょう。

 

Stevens は、人名で固有名詞ですが、スチーブンスよ、という呼びかけではなくて、ファラディさんから見たスチーブンスとの関係を表している言葉、すなわち、私の造語ですが、「敬関詞」と考えるべきだと思います。

敬関詞とは、敬意とか、関係とか、を表している英語での文法的な部分です。日本語では敬語表現といわれる部分で、です、とか、でございます、とか、じゃん、などの語尾の言い回しが、言い手と聞き手との関係や敬意の程度を表しています。英語では、そういう表現部分が分かりやすいい形では無いように思います。ただ、名前の呼びかけなどに、そういう意味が込められているように思うわけです。それを敬関詞と名付けたということですが、どうでしょうか。

 

というところで、①は、「おおい、おい、おい」とします。my が、おい、Stevens も、おい、と訳しましたが、どうでしょうか。ファラディさんから見れば、スチーブンスは、おい呼ばわりの相手だと思うのですが。

 

②は、単語だけで文になっているのですが、格が分かりません。主客なのか、補格なのか、あるいは目的格なのか、が不明です。一番無難なのは、目的格ですが、格を明示する助詞を省くという手もあります。

「ガールフレンドォー」とか「女友達。」とか、です。

逆に、もっと具体的にして「ご婦人のお友達に会いたいか」あたりでしょうか。最後のは目的格らしいです。

 

③は、一般的によく使う「その年で」ということでしょうが、発展させて「隅に置けないね」も、ありかなと思います。「やるじゃん」だと、ちょっとくだけすぎかもしれません。

 

まとめて、

「おい、おい、おい。ご婦人のお友達と来たか。隅に置けないね」

としました。