170番です。

 

In fact, I remember Mr Simpson, the landlord of the Ploughman's Arms, saying once that were he an American bartender, he would not be chatting to us in that friendly, but ever-courteous manner of his, but insead would be assaulting us with crude references to our vices and failings, calling us drunks and all manner of such names, in his attempt to fulfil the role expected of him by his customers.

 

長い文です。分解しなくては・・・。

 

① In fact,

② I remember Mr Simpson, the landlord of the Ploughman's Arms,

③                    saying once

④                         that were he an American bartender,

⑤                            he would not be chatting to us

⑥                               in that friendly,  but ever-courteous manner of his,

⑦                           but insead would be assaulting us

⑧                               with crude references to our vices and failings,

⑨                                  calling us drunks and all manner of such names,

⑩                               in his attempt to fulfil the role

⑪                                                              expected of him by his customers.

 

今は地元でパブを経営しているシンプソンさんが、アメリカでバーテンダーとして働くならば、と仮定した働きぶりについて言っていたことを、スチーブンスが聞いて覚えていることを、今書いているようです。

「イギリスのこの店のように、お客を立てるような口調で話すことはないばかりか、お客の振る舞いにケチをつけるように、酔っ払いとか飲んだくれとからかうくらいに怒鳴った方が喜ばれるんだ」とシンプソンさんが言ったようですね。

聞いたことでもあり、また、シンプソンさんがアメリカでバーテンをするならばと、仮定したことなので、仮定法で書かれています。

それが④の were と⑤と⑦の would です。

要するに、見ていないこと、聞いたことを、改めて伝えるとなると、こういう表現になるということなのです。この原理が分かれば、あとはそのように言葉を日本語に置き換えていけばよさそうです。

それともう一つ注意すべき点があります。

伝聞を読者に伝えているのですから、いわゆる関節話法というもので書かれています。his とか us とかの代名詞が具体的に誰を指しているのかに用心するべきですね。

 

さて、前の文は、

「というのも、アメリカでは雇われ人が気のきいた冗談で応えるのは、それも仕事のうちであると考えられているように思ったからでございます」

でした。それを受けて①なのですから、

「確かに」とか、「現実に」と、受けて、発言を展開していけばいいように思います。

「確か」だけでもいいかもしれません。

 

②③は、間にthe landlord of the Ploughman's Arms,がシンプソン氏の肩書として入っていますが、SVOの文型で、そのOが④以下⑪までの伝聞の内容というわけです。

  

ここまでは、

「確かに『農民剛腕屋』の主人のシンプソンさんが、かつて~とおっしゃっていたことを覚えています」

となります。

 

いよいよその伝聞の内容ですが、④以下を再掲すると、

④                         that were he an American bartender,

⑤                            he would not be chatting to us

⑥                               in that friendly,  but ever-courteous manner of his,

⑦                           but instead would be assaulting us

⑧                               with crude references to our vices and failings,

⑨                                  calling us drunks and all manner of such names,

⑩                               in his attempt to fulfil the role

⑪                                                              expected of him by his customers.

となっています。

 

④は、that were he an American bartender, となっていますが、倒置されて接続詞 if が省略された形になっています。

that if he were an American bartender, という語順が順当で、補った if 以下文末までの内容がまるまる that の内容で、それが③のsaying の目的語(節)になっているわけです。

これが、仮定法でなければ、

that when he was an American bartender, となっていたはずで、

彼がアメリカのバーテンだった時に、

と、シンプソンさんはちゃんとアメリカにいたことになります。

 

④を訳せば、

「彼がアメリカでバーテンをするならば」

ですが、間接話法の主語と今読んでいる読者との距離感がポイントです。

 

⑤では、us が誰かをはっきりさせておきましょう。

「我々」でいいのですが、もっと狭く考えるとシンプソンさんがバーテンをする時に目の前のカウンター越しに対面しているお客さんのことです。

「お客には、・・・とは話さない」となります。

 

では、どんな調子で話すかというと、それが⑥の in that friendly,  but ever-courteous manner of his,ですね。

in は、様子や雰囲気を表す前置詞で、but は except の代わりに使われているようです。

前の行⑤に、not があるので、このbut と組ませたくなりますが、慌ててはいけないようです。⑦のbut と組み合わせて、~ばかりでなく~で、とする方が順当です。

「そこまで丁寧ではないものの、親しげな調子で」話すことはなかった、となります。

friendly とか ever-courteous とかは、どんな日本語に訳したらいいのか、頭を悩ますところです。しかも、否定形が入っているとがぜんややこしくなるものです。

 

続いて、組み合わさる方の⑦の but です。そんな穏やかなものの言い方じゃなくて、もっとぞんざいに、もっとお客をアホ扱いにして話す、ということを言っているようです。

「お客を咎めるように」です。

 

これに、⑧の前置詞句がかかっていて、状態を説明しています。

「お客の作法違反や失敗を」からかうのですが、その作法というのは自分たちバーテンが勝手に作った流儀であって、お客の側からすれば、いちいち言うことじゃないことにこだわる、という状態が許される空間だというところがミソです。

つまり、カウンターのむこうとこっち、どっちが客だ、ということです。

⑨は、「酔っ払いだの、その手のいいまわしで」となります。飲んだくれ、あたりもありますね。へべれけを入れた言い回しもありそうです。

 

⑩は、「職務をまっとうする目的で」と直訳でき、

⑪は、先頭に関係代名詞の that または which を補えば、先行詞は⑩の role になり、それを修飾しているという構造です。

「お客から期待されている職務をまっとうする」となります。

 

というところで、つなぎ合わせると、

「農民剛腕屋という店の御主人のシンプソンさんがこんなことを言っていたのを思い出します。彼がアメリカでバーテンをするならば、お客様に向かって穏やかに親しみを込めた口調で話すのではなく、むしろ、お客の不慣れや戸惑いをからかい、酔っ払いとか飲んだくれとからかうように話すことが期待されており、それを果たすことが職務だと申しておりました」

としました。