1-63です。
For it was then that I felt the first healthy flush of anticipation for the many interesting experiences I know these days ahead hold in store for me.
anticiparion 予期 予想 期待
スチーブンスの物言いは複雑です。もっと簡単に言えそうなんですが、そういうキャラですからやむをえません。
分解してみます。と言っても、それも結構考えます。
前の文では、ちょっと頑張って高いところまで登り、遠くの景色を見晴らしながら、これからの旅を思うと、何かしら気持ちが高ぶってくるというようだと、スチーブンスは感慨にふけっているところでした。
さて、その感慨は期待なのか不安なのか、ということですね。
① For it was then that
② I felt the first healthy flush of anticipation
③ for the many interesting experiences (that)
④ I know these days ahead
⑤ (be) hold in store for me.
こんなふうに分解しました。省略されている関代、be動詞を補ってあります。
anticipation と言っていますから、道を間違えているのではないかという心配より、遠くまで広がる穏やかなイギリスの景色を見て、安心感とともに期待が膨らんできているように思われます。
さて、①をよく見ると、it was then that があります。これは前の文と同じです。
更に次の63番の文でも、it was then that は出てきます。
同じパターンでカズオ・イシグロは繰り返しているのです。
then は名詞であると判断すれば、強調構文の形となって、
「that 以下のことは、その時 でした」となります。For を加えて訳せば、
「というのは、その時感じたことは・・・こんなことです」
という感じです。
それが②以下です。②は、SVOの文型で、私は、the first healthy flush of anticipation を感じた、と言っています。healthy とあるので、牛が点々と見えている田園風景を見て、道に対する不安が消え、旅に対して期待が膨らんできている様子がうかがえます。
健康的、ですが、「屈託のない」とか「手放しの」「安心して」というような感じでしょうね。
スチーブンスは心配性というか、失敗がないことが理想と考える性格のようで、そもそもジョークには向いていないのですね。ありとあらゆることが経験だと考えることができれば、と思いますね。
この first は、③で出てくる新しい経験を踏まえて、まず最初の経験、体験といっていると考えたらいいです。
ということで、
「私は、やっと安心して期待感が膨らんでくるのを感じた」
となりますね。
③は「これからの面白そうな体験の中で」ですが、感受性の柔軟性がポイントになると思うのですが、スチーブンスはどこまで柔軟になれるでしょうか。
どういう experiennce かというと、それが④⑤で、省略された関代 that を通して説明しています。注意すべきは、know が現在形であることで、スチーブンスが今考えていることを表しています。
「この先いつまでも消えることがないと、今思っている」、そういう経験の、まず最初のもの、ということです。
「これから何日かの忘れがたい経験の中で」
ということで、
「それはどういうことかと言えば、この先いつまでも記憶に残るこの旅のまず最初に感じた感動と言ってよいことでした」
としておきます。