1-71です。

 

I was then brought up to this room, in which, at that point of the day, the sun was lighting up the floral patterns of the wallpaper quite agreeably.

 

今回もいい文だと思います。

カズオ・イシグロの文は誰にも書けそうな普通の文だと思うけれども、誰にも書けない文だと思います。言葉の使い方が独特だから、それで新鮮に感じるからでしょうか。

「クララとお日さま」で、最初の所で、物語の中心になる二人が出会うか、知り合う場面で、new という言葉を使っていますが、その new の使い方に、はっとします。しみじみといい使い方だなと思うわけです。

62,63,64の文では、then が通常の副詞ではなく、名詞で使われており、それが新鮮でした。今回の then はどうでしょうか。

 

なんだかんだの顛末があって、女主人の計らいで特別に良い部屋を使えることになって、その部屋に首尾よく到着した時の、スチーブンスの気持ちが伝わってきます。

 

こんかいもとりあえず分解をしてみます。

 

⓵ I was then brought up to this room,

② in which

③ , at that point of the day,

④ the sun was lighting up the floral patterns of the wallpaper quite agreeably.

 

⓵のthenはここでは副詞ですね。順当です。

I was brought up と受動態になっています。女主人にこの部屋に連れてこられているのですから、そう書いてあって当然なのですが。

「そうしてこの部屋に連れてこられた」

となります。

up とありますから、2階か3階な案でしょうね。

 

②は、which は関係代名詞ですね。

文法書には、関係代名詞の用法は二つあって、一つは後ろから訳す限定用法、もう一つは前から訳す継続用法と書いてありますが、ここでは継続用法ということになりますね。

「その部屋には」

と訳せばよさそうです。

 

③は、「その日のその時点で」ということです。太陽は刻々と位置を変えるので、部屋に差し込む光線の角度は常に変わっています。

スチーブンスが部屋に着いたときには、と時間を限定して、その時は、どうだったかを説明するわけです。

 

それが④です。夕方の角度のない光が部屋の奥まで射しこんで壁紙を照らしていました、ということです。季節は夏ですから、太陽の照り方も日中は暑いはずですが、夕方はさすがに穏やかになっていて、直射日光を受けても我慢できるというのが agreeably ということだと思います。心地よく、とまでは行かないが、でも まあ許せるということでしょう。当然ブラインドはあるはずですが、使わなくても大丈夫ということでしょう。

「光線は奥の花柄の壁紙まで届いていた」

ということでしょうか。

 

ということで、

「そうしてこの部屋に案内されました。そのときは部屋の奥まで日が差し込み、花柄の壁紙を穏やかに照らしておりました」

としました。