165番です。

 

In any case, for all Mr Graham's scepticism, I can remember he and I spending many evenings trying to put our fingers on the constitution of this 'dignity'.

 

今回も複雑な文ではなさそうですが、分解してみます。

 

① In any case, for all Mr Graham's scepticism,

② I can remember

③ he and I spending many evenings

④ trying to put our fingers on the constitution of this 'dignity'.

 

こんな風に分解しました。

②が本体の文ですね。

 

①は、

「どうあろうと、グレアムさんが言う疑問を含めて」

ですが、この疑問というのは、グレアムさんが言っていることにスチーブンスが全面的に賛同できない、と言っていることです。つまり、

「そういうグレアムさんが言うことに疑問は感じるけれども、いずれにせよ」という感じです。

 

②は、直説法の can で

「思い出すことができる」

というのは現実であるということに注意です。

想像で思い出しているのではないのです。

蛇足ながら、書き添えると

I can remember (that)

と、最後にthat が省略されていると考えるべきで、次の③につながります。

 

というのは、次の③の he and I というのは主格であって、文になっているはずで

③を書き直すと、

(that) he and I (were) spending many evenings to put our fingers ...

that は繰り返してありますが、こういう文が書かれているはずです。

要するに、動詞 were が省略されているわけです。過去進行形になっていたはずです。

その理由は、ing という音を重ねてオノマトペ的にカズオ・イシグロがちょっと遊んでみたのではないかと思うのですが。

彼と私の二人が議論を重ねたのは過去のことですから、この文の時制は過去進行形になるべきで、そうすると、複数の he and I に対して were を使うことになると、この were は仮定法っぽくなってしまうので、過去の現実を表現するのには不適当で、思い切って省略してしまったと、筆者は考えます。

 

いずれにせよ、③は

「彼と私は、多くの晩を費やしました」

と読めばいいです。

 

さて④は、 put a finger on という熟語が辞書には出ているのですが、ここでは文字通りに解釈して、「を自分たちの手でつかむ」と読めばいいと考えます。で、

「この品格の神髄をこの手で掴むことを試みました」

となります。constitution は憲法ですから、神髄とか本質ということですね。

 

というところで合わせると、

「いずれにせよ、グレアムさんの言い分も含めて、私たち二人は、この品格の神髄をこの手でつかもうと幾晩も費やしたことを覚えています」

となります。