166番です。
We never came to any agreement, but I can say for my part that I developed fairly firm ideas of my own on the matters during the course of such discussions, and they are by and large the beliefs I still hold today.
長い文ですが、形容詞の使い方がカズオ・イシグロらしいと思います。終わりに近いところの by and large がそれですが、ありふれた形容詞だけによく理解できます。
というところで、分解です。
① We never came to any agreement,
② but I can say for my part that
③ I developed fairly firm ideas of my own on the matters
④ during the course of such discussions,
⑤ and they are by and large the beliefs I still hold today.
こんな感じで分解しましたが、④の前置詞句は③にくっつけておいた方がいいかもしれませんが、③の行が長くなるので分けてみたということです。
①は、
「私たちは何らかの結論にたどり着くことはなかった」「一致することはなかった」
ですが、こういう議論あるいは論争は一致することは稀ですね。
どちらかの説も正しいところがあり、それを認めれば、その反対は否定せざるを得ないことになってしまうので、それもできず、結果ずるずると論議が長引くというパターンです。spending many evenings でもお互い一致はせず、論争としては結構激しい喧嘩というものになるのですが、それとなく認め合って仲良くなり、その後の経験の中でその論争が生かされるというケースが多いように思います。
②は、
「しかし、自分に関しては、 ということができる
で、次の③以下になります。
③は、
「自分自身の考えを、かなり明確にすることができた」と
②に戻って、言える、というわけです。
④は、
「そういう議論を通じて」「その議論をしたおかげで」
ということです。
そして重要なことは⑤で、そこでの討論を通じて考えたことは、今でも自分自身の信念、あるいは生活信条、または業務上の指針になっているということで、
それが by and large という言葉で、つまり by すぐそばにあって、見過ごされがちではあるものの、large 大きく、重要な、と表されています。大きく、というのは、大きさが大きいのではなく、意味が大きいわけで、大きな意味がある とした方がいいです。
⑤は、they というのは、firm ideas のことですが、
「それらは、今日までも続く 私の 見過ごしがちではあるものの 大きな意味がある 信念となっています」
となります。
というところでまとめると、
「私たちは考えが一致することはありませんでしたが、その時の議論を通じて、自分自身の考えを整理することができ、そのことは今に続く 身近でありながら大きな意味を持つ 私自身の信念となっているのでございます」
となります。