185番です。
If I try, then, to describe to you what I believe made my father thus distinguished, I may in this way convey my idea of what 'dignity' is.
長いような短いような。分解してみます。
① If I try, then, to describe to you (what)
② what I believe made my father thus distinguished,
③ I may in this way convey my idea of what 'dignity' is.
このように分解しました。
なかなか珍しい文だと思います。
というのは、この文は仮定法現在形と考えることができ、条件節が If I try to describe という現在形で、将来の仮定を表現しています。
「あなた方に これから 説明しようと しているのは」となりますが、
過去の仮定は過去完了形、現在の仮定は過去形、将来の仮定は現在形、というように、仮定する帰結節の時制に応じて、一つずつ条件節の時制を前にずらす、というのが仮定法の原則ですから、if 節の動詞が現在形なら、将来の出来事を仮定していることになります。
仮定というのは、頭の中で思っていること、つまり想像していることです。
①の動詞は、If I try ですから、将来に、つまり、これから試みる ことを仮定しているわけです。これが全体の条件文になっていて、③の帰結文に対応しています。。
気分としては、相手の意向を尋ねている、というような丁寧な感じが出てきます。
特にこの辺りは、執事であるスチーブンスが、「品格」について語っている場面ですから、よけい丁寧な物言いになるのは当然ですね。
文の構造的には、最後の (what) が describe の目的語になっていて、それが先行詞となって、次の②に関係しています。次の②では、この what が主語になっています。
で、②へ行くと、what I believe となっていて、「私が信じている こと」と表現されていて、これ全体が主語です。つまり、動詞は made 、目的語は my father 、目的補語が thus distinguished という SVOC の文型です。
I believe は、 I think ぐらいでいいのでしょうが、ちょっと重い言葉を使っています。敬語と考えたらいいと思います。
「父が このように人とは異なる存在に 何が させたか と私が信ずる こと」
と全部の言葉を使って直訳できます。
「thus このように 」というのは、前の文までで描写していたスチーブンスの父親が、話し方は下手なほうで、知識もあるほうではなかったが、執事としての能力は抜群であり、若くして品格も備えていたという様子を表しています。しかもそれは努力により得られたもので、近頃はエネルギーの使い方がおかしいとも言いたいわけです。
③ですが、これは帰結文で、将来の出来事に関して、一つ前の現在形という時制を使っていると考えられるのですが、形からは直説法と変わりはありません。が、仮定法は自分の考えを話していいですか、という相手に対して許可を得るという行為が感じられ、丁寧さがにじむ文になります。
討論などで、自分の考えを言うときには、いちいち相手の許可など聞かないものですが、そこをわざわざ訪ねるというのは、相手に対する敬意の表れで、言葉遣いからなんとなく敬語的なものを感じます。
in this way は、「このやりかたで」ということですが、「これとともに」とか「同時に」といった感じの言葉だと思います。
convey は、運ぶ、運送する、伝える、などが辞書に出ていますが、運ぶことが伝えることになる、という感じがします。
とうところで、
「それでは、私の父が際立つことになったことを お話ししようと思いますが、それは同時に 品格とは何かを お話しすることになると思います」
としました。
さらに、
「私が、何が父を際立った執事にしたか、について、考えていることをお話しすれば、それは品格というものが何かをお話しすることになるかもしれません」
とすれば、現在の仮定っぽいかもしれません。