240番です。

 

I can well imagine how he must have looked that day, framed by the doorway of the vehicle, his dark, severe presence quite blotting out the effect of the gentle Hertfordshire scenery behind him.

 

長い文です。しかも切れ目がどこかが分かりにくいので、分解するのも注意が必要です。

 

① I can well imagine how he must have looked that day,

⓶ framed by the doorway of the vehicle,

③ his dark,

④ severe presence quite blotting out the effect

    of the gentle Hertfordshire scenery behind him.

こんな風に分解しました。④は、長いので二行になっていますが、severe presence から始まる句(しいて言うなら名詞句)で、③の his dark と同格と考えられます。

これに関しては、もうすこし説明が必要と思われますが、あとで書きます。

 

まず、文の構造ですが、①と③が、ひとつながりの文で、その途中に⓶が挿入されています。

この文は、I can well imagine という主節 に how 以下の従属節(関係副詞 how で始まる節、機能としては名詞節)が目的語(節)として機能し、③ his dark を目的補語としてのSVOCの文型になっています。

気をつけなきゃいけないことは、dark が名詞で使われていることです。

「暗い」という形容詞市ではなくて、「暗さ」という名詞なのです。暗澹たる気持ちとか、暗さという言葉に様々な意味を込めています。

で、暗さだけでは、ピント来ないだろうと親切に、その暗さを severe presence 以下で説明しているわけです。この部分は、dark と presence は同じもの、つまり同格と考えればいいわけです。

カズオ・イシグロの特徴的な品詞の使い方と言えます。

①の how 以下は、

「いかに彼が見えていたかということ」

ですから、一言で「様子」と言えば日本語としては分かりやすいい気がします。

「その日、彼の様子が暗く見えていたことを 私はよく描くことができる」

となります。

 

⓶は、客席の二人とスチーブンスの父親の位置関係から考えると、逆光になっている父親の表情は、暗くなっているはずなので、車内から見ると分からないから説明を加えています。

「クルマのドアの後ろに位置している」

と、父親の位置関係を明示すれば、逆光で表情は見ずらいのだなと読者は理解できます。

frame は、写真などの四角い画面の中で、どのように位置しているか、ということです。

 

④は、この文ではオチということになる部分です。

「厳しい表情の後ろには、穏やかなハートフォードシャーの景色が広がっていました」

となります。

 

合わせれば、

「私には、その時の父親の暗い表情をはっきり想像することができます。車のドアの後ろに立ちつづけている父の暗い表情の後ろには、明るいハートフォードシャーの穏やかな景色が広がっていたはずでございます」

としました。