124番です。

 

The object of this sort of servants' hall talk is invariably some butler who has come to the fore quite suddenly through having been appointed by a prominent house, and who has perhaps managed to pull off two or three large occasions with some success.

 

今回は長い文であることは間違いないのですが。まず、分解をしてみます。

 

⓵ The object of this sort of servants' hall talk is invariably some butler

② who has come to the fore quite suddenly

③          through having been appointed by a prominent house,

④ and who has perhaps managed to pull off two or three large occasions

⑤          with some success.

 

こんなふうに分解しました。

③と⑤はどちらも前置詞句で、②と④に分けずにくっつけておいた方が分かりやすいかとも思いますが、このブログの横幅が狭いので、分けておいた方が見やすいと思うからです。

②と④は、関係代名詞 who で始まる従属節で、先行詞はどちらも①の some butler です。つまりはどんな butler かを説明する節ですね。二通りの説明を付け加えているわけです。

ということで、長い文には違いないのですが、主節は①のみという文です。

 

⓵は、

「この種類の召使たちの話題というのは、決まって 執事の誰かの うわさ話 です」

となりますね。

 

で、どんな執事かを ②と④が説明しています。

 

②は、

「突然 注目を浴びることになってしまった ところの バトラー」

ですが、その理由は③で、

「旧家によって 約束されたために」

ですが、言葉を補うと、

「旧家によって 執事の席を 約束されたために」

でしょうね。

 

④は、その理由かもしれませんが、こういう執事がいるのかもしれませんね。

「おそらく 二つか 三つの 重要な 催し物を うまく やり遂げた ところの バトラー」

となります。

 

ぜんぶつなぎ合わせれば、

「そういう召使たちの話題は、決まって 旧家から地位を約束されたために 突然 注目を浴びることになってしまった執事の話題か、二つか三つの重要な催し物を うまくやり遂げたかの執事の話題です」

となります。 

 

子供たちの作文には、「みんながする遊びは、・・・という遊びです」などのように言葉が繰り返されることが多く、どちらかはいらないよと注意することが多いのですが、ここはあえて 繰り返しました。

 

 

 

 

123番です。

 

And yet those very same employees who once heaped praise on him will be too busy eulogizing some new figure to stop and examine their sense of judgement.

 

too ~ to ... 構文ですね。文法書通りの文が出てくるとうれしくなりますね。

さて、分解です。

 

⓵ And yet those very same employees

② who once heaped praise on him

③ will be too busy eulogizing some new figure

④ to stop and examine their sense of judgement.

 

こんな風に分解しました。

⓵が主語部分です。

②は、その主語部分を説明している関係代名詞節です。つまり、②の who は関係代名詞で、先行詞は emploees というわけです。him は、Mr Neighbours です。

「彼(ネイバーズ氏)をかつてほめちぎっていた まったく同じ 雇われ人が 」となります。

③と④で、too  to  構文になっています。to 以下の動詞が stop と examine の二つある事が文法書との違いでしょうか。stop については、まんまですね。

will be が動詞で、too busy が補語です。

④の不定詞 to stop と (to) examine は名詞として機能しています。

「立ち止まって そして 検証するには 忙しすぎる」で、

「忙しいので そして 立ち止まって 検証することが できない」となりますね。

検証する の目的語は their sense of judgement ですから、

「自分自身の 判断力(の当否)を 検証する には」忙しすぎる わけです。

 

And yet は、どう訳したらいいでしょうか。

前の文では、ネイバーズ氏が執事の才能を発揮して、大きなイベントをうまく采配を振るって成功させたものの、すぐに馬脚を現わして、それほどの執事ではなかったことが明るみになるというものでした。しかも、employee はそれをはやし立てた責任のことはすぐに忘れてしまう輩なんだ、というのがスチーブンスの悩みというか、解決すべき問題点である事を、発言するための前振りです。

ということで、

「しかも、そのくせ」

あたりがいいかもしれません。

 

ということで、

「しかもそのくせ、彼をほめちぎったばかりの 当の本人が 次のほめちぎるべき人物を探すのに 忙しくて、落ち着いて 自分の判断能力を 検証しようとも しません」

となります。 

もっとふさわしい訳がありそうですね。

 

 

 

 

 

 

122番です。

 

How often have you known it for the butler who is on everyone's lips one day as the greatest of his generation to be proved demonstrably within a few years to have been nothing of his sorts?

 

疑問文の形になっています。後ろの方に、nothing が、あるところがミソですね。つまり、疑問否定文というわけです。

「何回もなかったでしょうか?」と、問いかけているのですが、意味は「すぐに分かった」という反語になっています。

 

まず例のごとく分解します。

 

⓵ How often have you known it for the butler

② who is on everyone's lips one day as the greatest of his generation

③ to be proved demonstrably

④ within a few years to have been nothing of the sort ?

 

こんな風に分解しました。

⓵が、この文に中心で、

「何回 それを 執事として 知ることになる だろうか」

というSVOの文型です。

 

それを、というのは、目的語の it ですが、形式目的語です。真の目的語は、③ですね。すなわち to be proved という不定詞で、名詞として使われて、目的語になっています。

が、本来は動詞なので demonstrably と副詞が使われています。

さらに、 ④の前置詞句は、副詞として proved にかかっています。

「あきらかに 証明されること」

に動詞を修飾する副詞に訳せばいいことになります。

 

ここで、カズオ・イシグロは一ひねりしており、nothing を使って、反語にしています。

「そんな種類のヤツでは なかった ことを わずか 二三年のうちに 」

となります。

 

「そんな種類のヤツ」とはどんなヤツか、を説明するのが②です。

「彼の時代の もっとも 偉大な執事として すべての人の口に 一度は のぼった」ようなヤツですね。

 

合わせれば、

「その時代の偉大な執事として 誰の口にも一度はのぼるものの、わずか二三年のうちに そんな種類の執事ではなかったことが 誰の目にも明らかになってしまうことに 何度も気付かされるだろう」

となります。

 

 

 

 

 

 

121b です。(番号をつけるのを間違えたようです。)

 

I could have told you this at the height of his reputation, just as I could have predicted his downfall after a few short years in the limelight.

 

文の構造から言えば、複文ということになるわけですが、それほど文の構造に厳格にならなくてもよさそうです。

just as 以下が従属節で、his reputation までが主節と考えればいいのですが、むしろ、just as は and ぐらいに考えた方がよさそうです。

「そして」とか、「さらにまた」などで二つの同じ形の文をつなげるわけです。

 

まず、例のごとく分解してみます。

 

⓵            I could have told you this

②                 at the height of his reputation,

③ just as I could have predicted his downfall

④                 after a few short years in the limelight.

 

こんなふうに分解しました。②と④は、前置詞句ですから、状況を説明しているもので、それぞれ⓵と③にくっつけておいた方がいいかもしれません。

⓵と③は、対句っぽく同じ形をしています。

両方にある could は、仮定法ではなく、直説法 can の過去形と考えた方がいいと思います。できた、と断言していると思うのですが、仮定法と考えて、できたでしょう、と、気持ちを類推するように表現していると考えてもいいかもしれません。

スチーブンスのネイバーズさんに対する反感をを考えると、この could は直説法過去で、断言していると考えた方がいいと思うのですが、執事としてもスチーブンスならあくまでも丁寧な言葉遣いをするはずで、仮定法と考えるべきかもしれません。

this は、前の文の内容、つまり、彼が偉大な執事の境地に近づくことはなかった、ということを指しています。

 

というところで、

⓵は、「私はこのことをあなた方に言うことができた」

②は、「彼の名声が頂点にあった時に」

③は、「そしてまた、私は彼の転落を予言することができた」

④は、「脚光を浴びたわずか数年ののちに」

とそれぞれ訳すことができるので、

あわせて、

「彼が頂点にあった時に、私はこのことを言うことができました。そしてまた、脚光を浴びたわずか数年ののちに転落することを予言することもできたのでございます」

となります。

 

 

 

121番です。

 

But at no stage did he ever approach the status of a great butler.

 

今回は短い文です。が、英語らしい面白い文だと思います。カズオ・イシグロ

センスの塊です。

 

分解するとかえってわかりにくくなるかもしれないのですが、前置詞句などで分けてみます。

 

⓵ But at no stage

②       did he ever approach the status

③       of a great butler.

 

こんな風に分けました。

But は接続詞ですね。これだけで機能しており、他の要素とはつながっていません。ということで、これを除いて、他の要素を同じところに合わせてあります。

 

②が、この文の骨格です。SVO の文型です。he が主語、approach が動詞、the status が目的語です。

さて did は何物でしょう。

did は、強調する働きを持っています、と言えば簡単で、しかも、倒置形になっています、と続ければ、そうかなと思えてきますが、ちょっと書き換えて見ましょう。

⓵の no というのは、not any のことですから、

 at any stage  did not he ever approach the status  of a great butler

と書き換えることができます。

did は否定文の助動詞だったのですね。しかも、否定疑問文の語順になっています。反語として使われていて、より強調されるわけです。

さらに、not と ever を never にして書き換えると、

at any stage  did he never approach the status of a great butler

となります。

 

まあ、こうなると思いますが、この文はつまらないですね。

カズオ・イシグロの文は、さすがです。ちなみに、日本語版の訳者土屋さんの訳も秀逸です。イシグロの深層にある心情を汲み上げた名訳だと思います。

 

というところで、

「しかし、残念ながら彼は一人の優れた執事としての品格を備えるまでには至りませんでした」

とします。

 

 

 

120番です。

 

he did, I understand, mastermind a number of large occasions with conspicuous style.

 

今回は、複雑な文章ではないですね。助かります。

ただ、使っている言葉に、とげがあるというか、皮肉っぽいところに要注意です。

 

前の文がセミコロンでした。この文は、それで小文字で始まっています。

 

he did で、一息入れて、I understand を挿入して、次の動詞につなげています。

功績が素直にうけいれられるのであれば、こんな書き方はしないと思いますが。

 

さて、did は強調の do の過去形で、mastermind を強調しています。

「彼は、数多くの重大な機会を取り仕切った、と承知しております」ですね。

 

with 以下は、「人目に付くやり方で」ということで、

続ければ、

「彼は、数多くの重要な機会を、人目に付くやり方で、成功に導いた」

となりますね。

 

ただ、普通に相手を誉めようと思えば、もっとわかりやすく、すぐに理解できるような言葉を使うと思うわけです。

ここでの言葉の選択の理由を考えると、素直に誉める気分ではないということになります。

そこの神経的な屈折した気分を表すには、どういう言葉で訳せばいいか、ですね。

 

 

 

119番です。

 

Now, I do not doubt that Mr Neighbours had good organizatinoal skills;

 

今回は短い文ですが、英語と日本語の違いを考えるにはもってこいの文章です。

 

とりあえず分解します。

 

⓵ Now, I do not doubt that

② Mr Neighbours had good organizatinoal skills;

 

こんな風に二つに分解しました。

⓵は、that が目的語になっている、SVOの文章です。that は関係代名詞で次の②を表しています。now, は「さて」でいですね。

「さて、私はthat を疑いません」

となります。

 

さて、②ですが、普通に訳せば、

「ネイバー氏は卓越した組織能力を持っていました」

となります。had は、「持つ」の過去形で、その have の目的語は good organaizational skills ですから、くなるのは自然ですが、日本語としては、意味はもちろん正しく読者に伝わるとは思うのですが、日本語らしくないと感じます。

それは、目的語である名詞をそのまま名詞として訳してしまうからで、

そこを用言に変換して訳すと日本語らしくなると思います。

つまり、

「ネイバー氏は、催しごとを手際よく仕切られました」

となるのですが、仕切る、という日本語がやや違和感があるかもしれません。別の言葉にした方がいいと思うのですが、どの言葉にするにせよ、用言化して訳した方がいいと思うわけです。

 

どんな訳語がいいのでしょうか。

「手際よく采配を振るわれました」

は、古めかしいかもしれませんが、

というところで、

「さて、私はネイバー氏が催しごとを手際よく成し遂げることができたことを疑うものではございません」

としておきます。

 

このように名詞的に訳した方がいいのか、あるいは、用言的に訳した方がいのかは、言語により語順に偏りがあるところが大きいと思います。

すなわち、英語は動詞は文の前の方に出てきており、文末はその目的語としての名詞が出てくることが多いという宿命があり、日本語は文末は用言が多いという構造的な宿命によるものだろうと思います。その部分は、また敬語をともなわせて、相手との関係を自由自在に表現することができるようになっているというのが、日本語の面白さだと感じています。