5番目の文です。

 

In fact, as I recall, I was up on the step-ladder dusting the portrait of Viscount Wetherby when my employer had entered carrying few volumes which he presumably wished returned to the shelces.

 

これは今までの文と比べると、ずいぶん単純な文に思えます。挿入句などはあるのですが、上から順に読んでくればよさそうです。

 

 In fact は、「実際は」とか「本当のところ」で、

as I recall は、「覚えています」とか「思い出します」あたりですが、

スチーブンスとしては、自分の本来の仕事ではないことをしているのを、新しいご主人様に見られてしまったという、しかもそれはダーリントンの邸館の管理に必要な人員を確保することが本来の自分の仕事であるにもかかわらず、それができなかったことを示しています。

その結果つまらないことをやっているのを見られてしまうということになるわけで、非常にかっこ悪い事態だから、はっきり覚えていることに、後悔の念みたいなものを感じさせる訳を目標にしたいところです。挿入部分だけに、そういう気持ちを出す必要があるでしょう。

 

続く本体の部分は、事実を述べているだけで、そのことを訳せば問題はないはずです。

I was up on the step-ladder dusting the portrait of Viscount Wetherby when my employer had entered carrying few volumes which he presumably wished returned to the shelves.

presumably  どうも~らしい(だと思う) たぶん 

ただ情景として、位置関係的には使用人が脚立の上で、したがって高い位置、主人の方が低い位置です。

ということは、話すときには見上げて離さなきゃいけないことになり、主従が逆転しているような位置関係には、多少気を付けておいた方がいいかもしれません。

 

文法的に気にかかるのは、終わりの部分の

which he presumably wished returned to the shelves. の中の、

 wished returned と、動詞の過去形が連続している部分です。

動詞は、一つの文(節)には一つ、というのが鉄則ですから、これはおかしいことで、

which he presumably wished ( to be ) returned to the shelves.

と、returned の前に、to be を補ってやれば、落ち着きます。

ちょっと前から訳せば、

「どうも棚に戻すつもりだった何冊かの本を抱えたご主人様が入ってこられたときに」となるでしょうか。

 

ご主人様の方も、「これ、戻しておいてくれ」で済むはずなのに、主人役に慣れていないようです。

 

ということで、

「その時のことは実際に、はっきり覚えているのでございますが、私は脚立にのぼって、ウェザビー子爵の肖像画に向かっておりました。そこへファラディ様が棚に戻す書物を抱えて入ってこられたのでございます」

と訳しました。

 

が、あれこれ読み取った情景を訳すし込むのは難しものです。

 

6番の文です。