6番目の文です。
On seeing my person, he took the opportunity to inform me that moment finalized plans to return to the United States for a period of five weeks between August and September.
面白い文章です。
ほかの言い方もできるはずですが、ニュアンスの感じさせ方といい、この文しかないとも思えるし、さすがノーベル賞と言いたくなるところです。
最初の On seeing my person, からして、そうですね。
「 my person 」にこういう使い方があるとは思いませんでした。
しかし、辞書(ジーニアス英和大辞典)には、でていました。1から10までの意味項目のうち、2番目に
2《正式》[通例 a/the/one's ~] 身体 体 体つき 《古》容姿 外見 風采
とありました。
辞書も文法書も調べると、ちゃんと書いてあるというのが腹立たしいところではありますが。
「私の姿」ということになると思います。
つまり、「私の姿に気がついて」というわけですが、
簡単に、When he saw me, と言うのでは、どこかに足らないニュアンスがあるから、こういう表現になるまで、カズオ・イシグロさんは推敲したわけで、その理由を何とかと読み取って、訳さなければいけないことになります。
ここが、訳の面白いところです。英語の勉強にも日本語の勉強にもなってしまうなあと感慨してしまいます。
On seeing も、気を付けた方がいいですが。
seeing は、動名詞ですね。前置詞 on の目的語になっていますから、現在分詞ではありませんが、訳の上では、見ているとか、見ていたとか、そう変わりはないようです。
書き換えれば、先ほどの when を使ったようになると思いますが、深みが違いますね。
on ~ing で、見ることが動いているんだというわけですが、見るは継続していても見るじゃないかと思うわけですが、
視線を床から壁の方に動かしたときに、執事の姿が目に入ってきた、という感じになるのかなと思います。
その時、主人は主人として、執事に、本を抱えているところを見られてしまって、なんとなくバツが悪いということを感じたのかなと・・・
こんなあれこれは、言い換えたwhen 節では感じられないので、原文はさすがです。
ちなみに、文法書(フォレスト・桐原書店刊)には、
On seeing the man's face, she panicked.
「その男の顔を見たとたん、彼女はうろたえた」
On getting home, I phoned Mike.
「家へ着くとすぐに、私はマイクに電話した」
という例文が出ていました。
「とたん」とか「すぐに」とかに訳すようですね。
残りは、文を区切って並び替えてみます。
he took the opportunity
to inform me that moment
(was) finalized plans to return
to the United States
for a period of five weeks
between August and September.
彼は 幸運を得た
私に 期間を告げるという
戻る計画を決定した
アメリカ本国に
五週間ほど
8月から9月のあいだに
と直訳できるようですが、
一般的な単語を使って、ここまでスチーブンスのキャラを表現できるというのは、やっぱりカズオ・イシグロはすごいと思ってしまいます。
ということで、この6番の文の訳は、以下のようにしました。
「私がいることに気付かれて、ちょうどいい機会だというように、
八月から九月にかけて五週間ほどアメリカに帰ってくることにしたよ
と、申されました」
「とたん」はなくなっちゃいましたが、あった方がいいでしょうか。