121番です。
But at no stage did he ever approach the status of a great butler.
今回は短い文です。が、英語らしい面白い文だと思います。カズオ・イシグロの
センスの塊です。
分解するとかえってわかりにくくなるかもしれないのですが、前置詞句などで分けてみます。
⓵ But at no stage
② did he ever approach the status
③ of a great butler.
こんな風に分けました。
But は接続詞ですね。これだけで機能しており、他の要素とはつながっていません。ということで、これを除いて、他の要素を同じところに合わせてあります。
②が、この文の骨格です。SVO の文型です。he が主語、approach が動詞、the status が目的語です。
さて did は何物でしょう。
did は、強調する働きを持っています、と言えば簡単で、しかも、倒置形になっています、と続ければ、そうかなと思えてきますが、ちょっと書き換えて見ましょう。
⓵の no というのは、not any のことですから、
at any stage did not he ever approach the status of a great butler
と書き換えることができます。
did は否定文の助動詞だったのですね。しかも、否定疑問文の語順になっています。反語として使われていて、より強調されるわけです。
さらに、not と ever を never にして書き換えると、
at any stage did he never approach the status of a great butler
となります。
まあ、こうなると思いますが、この文はつまらないですね。
カズオ・イシグロの文は、さすがです。ちなみに、日本語版の訳者土屋さんの訳も秀逸です。イシグロの深層にある心情を汲み上げた名訳だと思います。
というところで、
「しかし、残念ながら彼は一人の優れた執事としての品格を備えるまでには至りませんでした」
とします。