115番です。
For two or three years in the mid-thiries, Mr Neighbour's name seemed to dominate conversations in every servants' hall in the land.
今回はちょっと長い文に戻りましたが、文としては一つの文です。複文でも、重文でもありません。前置詞句が本体の前後に、四つあるので複雑な文のように見えています。
カズオ・イシグロのこういう言葉の順序と、言葉の種類の使い方がうまいと思います。また、シェークスピアの時代の言葉の使い方とは違って、やはり現代的です。
普通の語順にすれば、
Mr Neighbour's name seemed to dominate conversations in every servants' hall in the land for two or three years in the mid-thiries.
となります。
これを分解してみましょう。
⓵ Mr Neighbour's name seemed to dominate conversations
② in every servants' hall
③ in the land
④ for two or three years
⑤ in the mid-thiries.
こうなります。本体⓵は不定詞の入った SV の文型です。さほど複雑ではありません。
seem と dominate と動詞が二つありますが、一つの文では動詞は一つしか使えないので、dominate の方を不定詞にして、名詞として扱っています。
「ネイバー氏の名前は、会話を支配しているようにみえた」
と訳せます。
後は②以降の前置詞句を訳してくっつければいいですね。
「ネイバー氏の名前は、三十年代半ばの二・三年は我が国すべての召使部屋の会話を支配したように見えました」
となります。
私が書き直した文も、順序を変えただけですから、カズオ・イシグロのオリジナルと同じ単語で、同じ言葉で同じことを言っているのですが、なんとなくつまらないと感じます。絵で言うならば、モチーフは同じでも、構図とか筆使いのタッチが違うということになるのでしょうか。
原文の語順で、その気持ちになって訳すと、
「三十年代半ばの二・三年というものは、ネイバー氏の話題で、我が国の召使部屋はどこでも持ちきりになったように思われました」
と訳せます。
結局、for の使い方がうまいと思うわけです。