117番です。
And most frustrating of all wuold be having to witness at the conclusion of each such anecdote otherwise decent employees shaking thier heads in wonder and uttering phrases like:
今回はほどほどの長さですが、結構面白い文です。分解してみます。
⓵ And most frustrating of all would be having to witness
② at the conclusion of each such anecdote
③ otherwise decent employees shaking their heads in wonder
④ and uttering phrases like:
こんな風に分解しました。
④の終わりは、:になっています。文は切れているのですが、内容は次の文に続くぞ、ということです。
ポイントになるところは、otherwise ですね。これが何者なのか。
⓵から④までじっくりと見ても、どんなに気をつけて見ても、動詞が一つしか、つまり、would be having to witness しか見当たりません。ということはこの文は①から④まで全体で一つの文と考えるべきなのです。
まず、⓵と②で一つの文になっていると考えた場合を見ましょう。
most frustrating of all が主語です。「なかでももっとも苦痛だったことは」となります。
動詞は、不定詞まで含めると would be having to witness で、完了形の進行形になっていますが、have to 構文で「~しなければならなかった」という意味を含んでいます。witness することを続けなければ いけなかった、ということですね。
つまり、次から次へと邸館にやって来るビジターの召使たちが最新情報を持ってくるのを聞かねばならなかった、という状況を説明しているわけです。面倒くさいことだろうとお察しいたしますが。
「そして、もっとも苦痛だったことは、それらひとつひとつの話を最後まで聞かねばならないことでした」
となります。
⓵と②だけできちんと訳せてしまい、③④の出番がありません。逆にいえば、この③④は文の構造としては必ずしも必要なものではない可能性があります。
③④をよく見ると、対句になっています。shaking と uttering が、後ろから decent employees を修飾しており、and で結ばれています。この二つは現在分詞として機能しており、文の中での動詞ではないのです。
ということは、③④は文ではないということになります。otherwise は接続詞ではないのですね。
otherwise を除いて訳してみると、 decent employees は「普通の召使」「当たり前の判断力を持つ召使」、さらに in wonder は「感動して」で、phrases like は「のような言葉を」ですから、
「感動して頭を振ったり、次のような言葉を言ったりする、普通の召使」
となり、①②で述べた事柄・情景を補足していることが分かります。
つまり、この otherwise は前置詞と考えるとよさそうです。
私が日ごろ使っている辞書は、「ジーニアス英和大辞典」の電子辞書版ですが、この中には副詞と形容詞の訳語は出ていますが、前置詞としての訳語はありません。こういう使い方はまれというか、カズオ・イシグロの独特の使い方といえるかもしれません。
③④は前置詞句と考えれば、動詞がないことが当たり前と理解できます。訳語としては「(そう)なのに」とか「にもかかわらず」「のくせに」あたりが考えられます。
誰かを誉めるとすれば、その誉めるだけの行動の良さを理解していなければならないわけで、そういう理解力があるならば、むやみとほめることばかりはしないだろう、という二律背反的な状況を提示する前置詞のように思います。
たいして面白くのない話を面白く聞かせるために、途中で話を盛って伝えられるというようなことは、まあまああることではありますが、知ったかぶりの召使ということなのかと思います。
「普通の召使なのに、感動しすぎて頭を振ったり、次のような誉め言葉を発したり」というようなことだと考えます。
結局全部をまとめると、
「何と言っても苦痛だったのは、そういう話を最後までつきあわねばならないことと、話の途中では感動して頭を振るのを見たり、誉め言葉を聞いたりすることでした」
としました。
前置詞には、at by for from in of on to with のような短いものから
amongst against between through などの長いものもありますね。
しかし、 otherwise を前置詞と考えるのは、意味的には可能性はあると思うのですが、辞書に出ていないというのが気にかかります。
もう一度、文型を検討してみることにしましょう。
まず、主語は most frustrating of all です。
次に動詞ですが、would be having to witness と複雑な形をしています。
would は、仮定法を表す助動詞ですが、ここでは不満がたまる原因を想像していることを表現しています。
be having to は、have to 「しなければならない」の進行形で、いつまでもずっと、と継続することの表現です。
続く、(to )witness が不定詞の形をしていますが、この文では、意味上の本動詞です。「聞き届ける、見届ける」のような感じで、しっかり聞いたり、見たりする、という感じだと思います。
動詞は一つ、という原則があるので、would be having to witness という動詞群(句)はbe が本動詞ですが、would と to witness はおまけの形になっています。
で、この witness は、そもそもは他動詞ですから、目的語が必要です。さらに、その目的語に目的補語が接続していると考えると、文型的にはきちんと説明ができます。
目的語とは、otherwise decent employees で、目的補語とは、shaking と uttering という現在分詞というわけです。
これならば、無理やり品詞を増やさなくても文法構造が理解できます。
otherwise decent employees は、「分かってもいないくせに、わかったふりをしている召使たち」です。
つまり、マニュアル通りにやってはいるけど、そのマニュアルの本質を理解しきっていない連中が、もっともらしくその感動を態度に表したり、言葉にしたりすることが、あほらしくて・・・というような状況だと思います。