88番の文です。
Only then did it strike me that there was indeed a role that a further staff member could crucially play here;
この文もセミコロンで終わっています。つまり、次の89番の文とつながっているのですが、文の構造上は88番と89番は別々の文と考えます。
一つの文には、必ず動詞が一つ必要で、それに応じた主語も必ずあります。
こういう文法的定義は、正式には調べたことはないのですが、なんとなくこうだろうなと思っていることです。
しかも、文は節とも言われます。主節とか、従属節ですが、節は文なので、それぞれ動詞があり、主語があります。
一つの文に、主節は一つですが、従属節は一つではなく二つあったり、従属節にさらに従属節がくっついていることがあります。
88番の文は、主節に従属節がくっついており、その従属節にもう一つ従属節がくっついているという構造です。
分解してみると、
1 Only then did it strike me that
2 there was indeed a role that
3 a further staff member could crucially play here;
となります。
1行目の it は、形式主語というやつで、実際は,その下の that 以下(2行目)のことがらをあらわしています。このthat は単純な接続詞です。
did は、strike を強調するdoの過去形ですが、全体が倒置形になっており、もっと強調する形になっています。普通形に直すと、
Then it only striked me that there was indeed … となり、これを強調すると、
Then it did only strike me that there was indeed …
となるわけです。本文は前半をさらに倒置して強調します。
「私を打った」というのは、「はっと気がついた」感じですが、それをさらに強調するのですから、もっとオーバーな訳がいりそうです。
さて、二行目おしまいの that は関係代名詞です。先行詞は a role です。
role は、「役割」「任務」「機能」ですから、直訳は
「that 以下のところの任務があった」ことになります。
で、関係代名詞 that は、a further staff member が、crucially に play できるはずの任務というわけです。
a は大体の場合訳さないのですが、ここでは、「そういう人が、一人」という感じの訳語を考えるといいと思います。
つまり、訳さない言葉を訳しだすことで、強調するわけです。
crucially は、決定的に、です。
肝心なのが、could です。これは仮定法です。
仮定法は、「事実に反する仮定」を表現するものと定義されますが、「事実に反する仮定」とは、「目の前に起きていないこと」であり、あるいは「目に見えていないこと」です。ということは、「頭の中にだけあること」であり、「頭で考えたこと」となります。
スチーブンスが頭の中で考えたことを示すもので、実際にはいない目の前にはそういう人材はいないことになります。が、スチーブンスの頭の中にはいるわけですね。
そんなことを含めた訳を考えれば、
「よりすぐれた能力がある職員が一人でもいてくれれば、どんなむつかしい職務でもわけはないことに、私は気づかされたのでございます」
となりそうです。
この日本語をもう少し練ればということでしょうか。
「優れた職員があと一人でもいてくれれば、どんな職務でも困らないはずだと、気づかされたのでございます」
これで、どうでしょうか。
では、次の文89番です。