89番の文にいきます。
that it was, in fact, this very shortage that had been at the heart of all my recent troubles.
文頭は小文字から始まっていますが、前の文がセミコロンで終わっていた名残です。
言い足りなかったことを補足したという感じです。
が、しゃべっているとしたら、こういう印なんかは、いちいち言っていないわけで、間の違いということになるのでしょうか。
セミコロンの間とか、ピリオドの間とか。
さて、本文に戻ります。it は何、thatは何かですが、it は形式主語で、内容はthat以下ということになります。
というと、it は that 以下に入っちゃうわけで、困ります。
が、これも倒置された文です。書き直すと、
In fact, it was that this very ...
というのが素直な文といえそうですが、カズオ・イシグロさんは、何かを強調しているというか、スチーブンスが下心を悟られまいと苦労しているのかな、と思います。
文の中頃の that は、関係代名詞で、先行詞は this very shortage です。
「recent の troubles の the heart にあったところのものは this very shortage でした」
を、滑らかな日本語にしながら、強調するところを強調すれば、訳は完了です。
「最近の不手際の根本にあったものは、まさしくこの欠如でございました」
というところでいいと思います。