22番の文です。
コロンでつながっている、その内容になります。
'It has been my privilege to see the best of England over the years, sir, within these very walls.'
privilege 特典 特権 恩恵
クオテーションでかこまれていますから、その時スチーブンスがファラディさんに言った言葉がそのまま書かれているのでしょう。
絶妙なところに、sir を挟み込んで、息継ぎの間を作っています。
「ご主人様」とそのまま日本語に置き換えて、それで訳しましたというのは、ちょっといただけないと思うのです。
スチーブンスとファラディさんの立場の違い、その場の状況、あるいは、本音と建て前などが伝わるような訳を、考える必要があるのではないか、と思います。
文の構造は、It は形式主語というやつで、真の主語は、to see という不定詞になります。
不定詞というのは、説明すると次のようになります。
「もともとは動詞であったけれど、今は動詞ではなく、
分類される定まった品詞がなく、
要するに名詞になったり、形容詞になったり、副詞になったりします。
つまり品詞が定まっていないということで、不定詞と命名されたもので、
目印として、前置詞 to を つけるが、
たまに、そのまま動詞の形で、使われることがある(原型不定詞)」
ということですが、不定詞は名詞で、その名詞が形容詞になったり、副詞になったりすると考えれば、いいかなと思います。
ここでは、名詞として使われています。
真の主語 to see the best of England を、形式主語 It が受けて、
「最高のイギリスを見てきたこと」=「それが」
has been my privilege 「私の特典であった」と、
スチーブンスは言っています。
within these very walls は、very がポイントです。
邸館の wall 「壁」が、名所旧跡とスチーブンスたちの間にはさまって存在していたことは、そういう美しい外界と遮断してきたことでもあるが、同時に有力者たちの秘密にすべき行動も隠してきたことにもなります。
そういう秘密にすべき行動というのは、イギリスの国際的な立場や国内の政治・経済的な秩序を作り出すことであり、そのことをスチーブンスは「最上のイギリス」と言っているのですが、同時にそう言うものを世間から隔ててきたのが、ダーリントンの邸館の壁だといっています。
いろいろな役割、目的のある壁、まさしくそういう壁、の「まさしくそういう」というのが very のいみでしょうか。
あとは、その期間などを付け加えて、ふさわしい訳語を考えればいいことになります。
ということで、
「この邸館の中にいたからこそ、永年にわたり最高のイギリスを見てこられました。それこそが私の役得でございました」
としましたが、もっといい訳がありそうです。