172番です。

 

It is quite possible, then, that my employer fully expects me to respond to his bantering in a like manner, and considers my failure to do so  aform of negligence.

 

この長さならと思いますが、まず分解してみます。

 

It is quite possible

, then,

that my employer fully expects me

                                          to respond to his bantering in a like manner,

                              and considers my failure

                                          to do so a form of negligence.

 

It は仮主語で、that 以下が真主語という構造です。

その that 以下の中身は、対句になっています。カズオ・イシグロは対句が好きですね。

my employer が主語ですが、動詞は二つです。expects と considers です。三単現の s がありますね。等位接続詞 and で結ばれています。

me と my failure が、それぞれの目的語で、続く to respond と to do の不定詞句が、それぞれの目的語の目的補語となっているのです。並べて書くと、

 主語     動詞  目的語   目的補語

my employer    expects        me               to respond    to his bantering 

                                                                                       in a like manners     

               and

                         considers     my failure    to do        so a form of negligence.

となります。

 

構造が分かれば、気が楽になります。が、意味としては、原因と結果、というようなところがあるので、訳し方は工夫がいりますね。

その上、a form of negligence (直訳は、無視の形)の否定語の使い方に気を使いますね。つまり、~ない、とするか、無~、とするかということですが。

 

ご主人様は、私が同じ冗談を返してくることを望んでいた、

(ことを、私は、よくわかっていたが、そうせずに、)

無視の形をとっていたことを 私の落ち度と 考えになった

ということは、全くありうることです。

と、直訳できます。

 

結局、ふたつの文を結んでいる接続詞 and の処理の仕方に工夫がいるようです。

この接続詞は、同じ形のものをつなぐのですが、ここでは形は同じでも、意味の上では原因と結果という従属的なものをつないでいます。それで、訳が落ち着かないのです。

「のに」とするのが自然ですね。

 

そこで、 

「ご主人様は、私が同じ気持ちの冗談を返してくることをお望みで、それなのに、完全に無視するような形をとるのが、私の怠慢であるとお考えになった可能性がございます」

としておきます。

 

教室では、

「おそらく、ご主人様は同じように冗談を返すことを望んでいらしたのに、そうしなかったのは私の落ち度であると思われているのではないでしょうか」

との訳が出ました。