137番です。

 

It was only after I had mentioned Miss Kenton that I suddenly realized how entirely inappropriate it would be for me to continue.

 

なかなか入り組んだ文になっています。

というのも、このプロローグの章は、スチーブンスが語り手という役回りになっていますが、その現在形の語り口の中で、自分自身に起きたこと、すなわち過去の現実と、起きればよかったこと、つまり過去の想像とが、交互に表現されています。文法的には、直説法と仮定法が入り組みます。

さらに、スチーブンスの執事という立場からのものの言い方、遠回しのような、へりくだったような、あるいは厳密で複雑な表現が、文法的には、仮主語真主語用法、関係代名詞の多用などに加えて、感嘆文や対句などの構文上のテクニックの組み合わせが、私たちを悩ませます。

時制の一致ゆえの過去形なのか、仮定法の過去形なのかを迷うのですね。

しかしながら、正確な英文なので、構文を落ち着いて解析すれば、読み解くことはできるばかりでなく、話し手の性格により、同じことを表現するのに様々な文体がありそうなことがよくわかります。

 

前置きはともかく、分解してみます。

分解する時の手掛かりは、接続詞、関係詞、前置詞、それに、コンマなどです。

但し、関係代名詞 (that, which など )は省略されることが多いので気をつけてください。一つの文が完結せず、途中からまた別の文が始まっているときは、これらが省略されている可能性があります。

137番の文をよく見ると、after の後に I had menntioned ... という文が続き、そのあと that 節が続いて、次に how という疑問を表す接続詞的な語に導かれる節が続いていて、この how 節全体は realized の目的語(目的節)になっています。

つまり、after は接続詞、that は関係代名詞、how は関係副詞ということです。

関係副詞というのは、なかなか変な品詞だと思うのですが、where, when, why, how があります。関係副詞ですから、それに対応する先行詞があります。

 

       where                 when               why             how

場所を表す語  時を表す語  reason(s)   なし

 

上の表のように対応しています。

how は、先行詞がないようで、ちょっと面喰います。文法的には、how は realized の目的語になっているので、関係代名詞の性格も持っていると考えると、気持ちが収まります。

 

ということで、次のように分解できます。

 

① It was only 

②         after I had mentioned Miss Kenton

③ that I suddenly realized

④            how entirely inappropriate it would be for me to continue.

 

今回は、仮主語真主語の組み合わせの中に、直説法部分と仮定法部分が存在し、語っている過去の時点ですでに過去だったこととが組み合わされていて、そこに感嘆文の倒置構造が仕込まれているのです。

 

①は、SVCの文型、②は after + SVO、③④が、SVOの文型で、④の節がまるまる③の realized の目的語(目的節)になっています。

 

①の It は仮主語で、新主語は③の that 以下です。つまり①は、SVCの文型で、

「それ(=that 以下)が、唯一でした」

となり、形容詞 only は補語なわけですが、前後に a または the と thing (feeling) を補って、It was a only thing と考えると分かりやすいかもしれません。

 

そして、それがいつだったかということを表す文が、①と③の間に、挿入されています。それが②の時間的な状況を表す文(節)です。

 

ここまで、

「ケントンさんのことを言った後、それが唯一でした」、あるいは

「ケントンさんのことを話した途端、それが残った」

となります。

 

  ④は、感嘆文の構造をしていますが、その文全体が realized の目的語になっています。目的節というべきものです。

「私にとって、話を続けることが、いかに不適当なことであるかということを」

となるのですが、この節での主語 it は、やはり仮主語で、真主語は to continue という不定詞です。

この④の内容が③の realized の目的語になっているわけですから、

「私が話を続けることが、いかに不適当であるか、ということを悟ったこと」

となります。

そして、これが①の仮主語 it の内容ですから、①は

「私が話を続けることが、いかに不適当であるか、ということを悟ったことが、唯一のことでした」

「私が話を続けることが、いかに不適当であるか、ということだけが残った」

「私が話を続けることが、いかに不適当であるか、ということにはっと気がついた」

となります。

 

こういう文の構造は、聞いたりするときには心地いいのでしょうね。

ということで、

「ケントンさんのことを言った途端、それ以上話を続けるのは不適当だと、はっと気がついたのでございました」

としました。