1-69です。
This afternoon - I arrived in Salisbury at around three thirty - when I entered my address in her register as 'Darlington Hall', I could see her look at me with some trepidation, assuming no doubt that I was some gentleman used to such places as the Ritz or the Dorchester and that I would storm out of the guest house on being shown my room.
trepidation おののき 震え 身震い
assume 想定する 推測する assuming と仮定して とすれば
storm あらしがふく 荒れ狂う がみがみ言う 怒鳴る
今回は長いですね。しかし、順序だっているようで、多少は亜安心できます。落ち着いて分解することが重要でしょう。
⓵ This afternoon
② - I arrived in Salisbury at around three thirty -
③ when I entered my address in her register as 'Darlington Hall',
④ I could see her look at me with some trepidation,
⑤ assuming no doubt
⑥ that I was some gentleman used to such places as the Ritz or the Dorchester
⑦ and that I would storm out of the guest house on being shown my room.
こんな感じに分解できると思います。
④の could は、can の過去形で、直説法ですが、⑤以降は仮定法です。 assuming がつかわれていますからそうには違いないのですが、そのあらわれが⑥の was と⑦の would という動詞の形の変化になっています。
ここで改めて、仮定法と直説法について私の考えをまとめておきます。
直説法 目で見えていること=事実 を表現する。
(叙実法 と言っていた時もあった)
仮定法 頭で想像していること=事実ではないこと を表現する。
(叙想法 と言っていた時もあった)
現わし方は、動詞の時制を一つ前にずらす ことです。つまり、
現在の事実に対する想像は一つ前の時制の過去形で、
過去の事実に対する想像は過去の一つ前、すなわち過去完了形で
あらわすということになります。
今回の文では、気をつけるべき動詞を探すと、
④の could see her look
⑥の was some gentleman
⑦の would storm out
が見つかります。落ち着いて検討すると、
④は、スチーブンスが女主人を見ている様子ですから、事実です。直説法で、can の過去形の could です。
⑥は、その女主人がスチーブンスを見て人品骨柄を判断した、その結果に対するスチーブンスの想像ですから was となっています。本来なら were という動詞を使うべきですが was も許されます。頭で考えた想像ですから、仮定法です。
そして、⑦は、みすぼらしい部屋を見せれば怒り出すかもしれないという女主人の考えを、スチーブンスが想像している状況の表現ですから、頭で考えた事です。というわけでもちろん仮定法です。
文法書には「事実に反する」と書かれることが多いのです。ここが分かりにくく、先へ進む気力がなくなってしまうのですが、
目で見えていること = 事実 ⇒ 直説法(叙実法)
頭で考えていること = 想像 ⇒ 仮定法(叙想法)
と覚えることをお勧めします。筆者自身はこう覚えて困ったことはありません。
例えば、目の前に、白い車 がある とします。
This car is white.
で、「この車は白い」で、これは直説法です。
仮定法なら、
This car were red. とも
This car was blue. とも、また
This car would be green. とも、色を変えて無限に文を作ることができます。訳は
「赤い車だったらなあ」「青い車だったらなあ」「緑だったらなあ」となります。
なぜ「らなあ」が、つくのでしょうか。
この動詞が過去形の文は、必要がないからです。過去形の「白だった」は、では今は何色か、という疑問につながります。今も「白い」はずですから、「白い」という現在形だけで十分なのです。
つまり、過去形というのは、時制の一致という原則を守るために必要になるのですが、事実の表現としては必要がないことになり、他の目的に、すなわち想像を表わすために使えることになる、というわけです。
日本語でも、動詞が過去形になると、それぞれ過去のある時に色が塗り替えられて、現在は白い車になってしまっているという感じが出てきます。
目の前の事実との差があることが、文法書では事実に反するというわけで、「だったらなあ」という訳に現れてきます。
ただし、赤と青の場合の were とか was は直説法の過去形と同じで、紛らわしいので would be を使う方が、違いがはっきりして、分かりやすいと思います。
ということで、would を見たら仮定法ということになります。もちろん、意志未来 will の過去形もあるので気をつける必要はありますが。
ちなみに、「未来のこと」は、目の前にある事実ではなく、やっぱり想像のことになります。ですから、時制は、未来の一つ前、つまり、現在形で表すこと、になります。これは、直説法現在と形は同じになってしまい、紛らわしいので、もう一つ前にずらし、過去形を使うことにしたようです。
事実と想像を表すときの動詞の活用形の使い方が、この問題の根本です。
この結果、未来のこと つまり、想像を表現する時には、過去形を使うという、妙なことになった、と私は思っています。未来のことは、過去形で書かれることになるわけです。これが、「タイムマシン」が書かれる動機だと私は思うのですが、どうでしょうか。
というのは、たいていの文法書には、仮定法の形については説明しているのですが、その原理については説明しているものはほとんどないからです。受験対策の文法事項の解説だと、深入りは時間がもったいないのかもしれません。
長くなってしまったので、もう一度分解したものを載せます。
⓵ This afternoon
② - I arrived in Salisbury at around three thirty -
③ when I entered my address in her register as 'Darlington Hall',
④ I could see her look at me with some trepidation,
⑤ assuming no doubt
⑥ that I was some gentleman used to such places as the Ritz or the Dorchester
⑦ and that I would storm out of the guest house on being shown my room.
⓵は、午後では幅がありすぎるので、②で特定しています。同格ですね。
「今日の午後と言っても、三時半頃でしたが」
とホテルに着いた時間を説明しています。
③は、「ダーリントン・ホールと、宿泊者名簿に記入すると」ですね。
④は、その時にスチーブンスが目にした女主人の様子、つまり目で見た事実を書いています。直説法の過去形、すなわち can の過去形 could です。
「私を見る顔に少しあわてた様子が浮かんだのを見ることができた」と、想像ではない事実として書かれています。見ることができたという強い事実の表現です。
⑤は、女主人の心の内を想像している assuming で仮定法になります。訳は、
「疑いもなく考えたようで」
あたりでしょうか。
⑥は「私はリッツやドチェスターに泊まりなれているどこかの名士かと」
⑦は「案内する部屋によっては怒りだすかもしれない」
です。
というところで、
「その日の午後、三時半を回ったころソールズベリーに着きました。宿泊者名簿に、ダーリントン・ホールと記入しますと、女主人の顔にちょっとあわてた表情が浮かびました。私がリッツやドチェスターに泊まりなれているどこかの名士と思い、案内する部屋によっては怒りだすかもしれないと心配したのかもしれません」
とします。
前半は直説法で、後半は仮定法でスチーブンスが想像しているように訳せばOKです。