159番です。

 

'Maybe you could keep her off our hands, Stevens.

 

と、今回はこれだけです。

 

could は仮定法ですね。ファラディさんが想像していることを表しています。

(I) Maybe (ask you that) you could keep her off our hands, Stevens.

と、省略されているものを補ってみると、分かりやすくなります。先頭は、1ではなくて、i の大文字です。

「お前に、彼女を我々の手の届かないところへ連れ出すように頼むことになるかもしれないよ」

と直訳できます。

 

keep her off our hands 「我々の手の届かないところ」というのがミソですね。

そこは、「お前の手の届くところ」であるから、「じゃあ、その手をどうする?どう使う気だ?」と冗談へ発展しそうです。

 

「奥様を手の届かない場所に連れ出してもらうかもしれんよ」

としました。

 

 

158番です。

 

'God help us if she does come,' Mr Farraday replied.

 

英語では会話部分は、まず会話の一言を書いて、それを引用符でくくり、それを言った人を明示して、その後に、続きの言葉を書くというのが鉄則のようです。

ここでも、この文の後に、ファラディさんがの言葉が引用符でくくられて続いています。

それぞれは短い文ですが、今まで通りにピリオドごとに区切って、ひとつずつ進むことにします。

 

さて、ダーリントンの邸館に宿泊するような人なら、奥さんを同伴するのは当然だと思うので、聞くこと自体が不思議ではあるのですが、カズオ・イシグロはきわどい冗談を言う場面を設定したかったということかもしれません。

 

「もちろん構わないよ」と肯定的に答えるか、

「それは困ったな」と否定的に答えるか。

このどちらかでしょうが、この先のファラディさんのセリフ次第ですね。

しかし、神が助けてくれる God help us 、と言っているのですから、困ったと考えている可能性の方が強そうです。

それはともかく、本来ならさっさとこのセリフ部分は片付けてしまうところでしょうが、あんまり先に進んでしまうと講座と乖離してしまうので、ゆっくりと行きます。

 

さて、God help us ですが、三単現の規則にはあたらないのでしょうか。

原文を確認しましたが、help に s はついていませんでした。

また、if she does come の does は強調の do ですが、これは三単現で does に変化しています。

ミスプリでない限り、一つの文に二つのケースが同時に存在しているわけで、不思議ですが、god の場合、これはありなのでしょう。

 

とりあえず、ここでは

「それは困ったな」と、ファラディ様はお応えになりました。

と訳しておくことにします。

  

 

 

157番です。

 

For instance, I once had occasion to ask him, if a certain gentleman expected at the house was likely to be accompanied by his wife.

 

前の文ではスチーブンスは、ご主人がおっしゃったことで驚かされたことは一度や二度ではない、と言っていました。

この文は、どう驚かされたのかという例なわけです。

まず、分解してみます。

 

① For instance,

② I once had occasion to ask him,

③       if a certain gentleman expected at the house

                      was likely to be accompanied by his wife.

 

①は副詞句です。全体にかかっており、「例えば」となるのですが、実際には、この文だけではなく、次の文にも及んでいると考えた方がよさそうです。

②が、この文の中心で、主節です。「あるときご主人様にお尋ねしたことがございます」です。直訳すれば、「かつて彼に聞く機会があった」です。

 

そこで、そのお尋ねしたことが、③という if 節になっています。ブログ幅の関係で二行になっていますが、②の主節の目的語(つまり目的節)として働いています。したがって、if は関係代名詞 that の代わりと考えた方がいいですね。

the house は、ダーリントンの邸館のことです。expected は過去分詞で、後ろから gentleman にかかっています。

「この邸館に(お泊りを)お望みの、ある紳士が」となり、つまり③の if 節の主語部分です。

 次の行は、その主語部分に対する動詞と補語部分ということになり、

「奥様をご一緒なさりたいと望んでおられる」

となります。

日本語は、関係を表す言語です。主人のファラディさんと執事のスチーブンスとの関係、更に、そのスチーブンスとお客様の関係を、適切な敬語で表すと自然な日本語になると考えています。

こういう日本語の原理については、もっと議論の必要があると考えています。

 

というところで、まとめて

 「例えばこんなことがございました。お客様が奥様をご一緒したいとお望みでございますがと、お尋ねしたところ」

と次の文に続けるような訳にしたのですが、次の文次第で変えた方がいいかもしれません。

 

 

156番です。

 

In fact, during my first days under Mr Farraday, I was once or twice quite astouned by some of the things he would say to me.

 

それほど長い文ではありませんが、分解してみます。

 

① In fact

②                , during my first days under Mr Farraday,

③            I was once or twice quite astouned

④                   by some of the things

⑤                                            (that) he would say to me.

 

このように分解しました。

③④が文の中心です。

①は、前置きで、②は時間的な状況を説明しています。

⑤は、he の前に関係代名詞 that を補ってみると、things に繋がり、それを説明していることが分かります。ただし、would は仮定法ではなく、時制の一致で、未来形の will が③の動詞 was の過去形に一致していることになります。

ファラディさんが言おうとしていたことは、その時に表現するならば未来のことなので想像です。つまり仮定法を使うことになるのですが、今スチーブンスはその時を回想しているわけで、それはもう想像ではなく過去の事実ですから、直説法で書くことになります。ということで、この would は未来形の will の過去形というわけです。

 

①は、「事実は、」とかで切り出せばいいですが、他には「例えば、」とかでもよさそうです。

②は、「ファラディさんが新し雇い主になって、しばらくの間」ということですね。このことが、挿入されています。

③は、この文の本体ですが、「一度か二度驚かされた」で、「驚かされたのは一度や二度ではありません」とするのもいいかもしれません。陣になられて

④は、その驚いた理由になるのですが、「あることによって」で、それが⑤です。

⑤は、意志未来の過去形で、「言おうとなさっていた」ことです。過去のその時点では未来のことだったのです。

 

まとめれば、

「実際に、ファラディさんがご主人様になられて間もないころは、おっしゃられることで驚かされたことは一度や二度ではございません」

となります。

 

 

155番です。

 

Indeed, to put things into a proper perspective, I should point out that just such bantering on my new employer's part has characterized much of our relationship over these months - though I must confess, I remain rather unsure as to how I should respond.

 

長い文ですが、前から切れ目ごとに読んでくれば、スチーブンスが言っていることは分かってきます。ただし、そのことはスチーブンスのことではなくて、ファラディさんが考えていることです。それをスチーブンスが見当をつけて言っているのです。そのため、I should point out と仮定法になっています。

 

とりあえず分解します。コンマと関係詞で分けていきます。

 

① Indeed,

②         to put things into a proper perspective,

③ I should point out that

④         just such bantering on my new employer's part has characterized

⑤               much of our relationship over these months

⑥ - though I must confess,

⑦ I remain rather unsure as to how I should respond.

 

こんな風になります。、

⑦の as to は、熟語のようですね。辞書には、as to = about ~については、と出ています。前置詞の代用というものですね。

⑥をよく見ると、先頭に「 - 」があります。このハイフンは、その前の部分の注釈、あるいは付け加えというもので、文法的には独立した構造のものです。

⑥を含めて、これを先に訳してしまうと、

「告白しなければなりませんが、どう反応すべきかについては、いまだに確信が持てません」という直訳になります。

how I should respond で終わっていますが、そのあとに to his banterings あたりを補ってやるといいと思います。スチーブンスが言うようにするならば、

「正直なところ、(ご主人さまの冗談に)どうお応えしたらよいのか、よくわからないのでございます」

となりそうで、この訳を後ろにくっつければいいですね。

「正直なところ」は、「困ったことに」とするのもいいかもしれません。

 

⑥⑦が、後追い注釈部分とすれば、①②は、前置き注釈部分ということになりそうです。

 

①は、

「確かに」

でいいですね。

相手の反応を予期して、それをあらかじめ発言の中に織り込んでおく、ということは、討論的なやり取りの中ではよくあることですが、スチーブンスのように八方に気を配らなければならない立場なら、なおさらです。

②は、直訳は

「事柄を正しい遠近感の中に置く」

となるのですが、パースペクティブとは、構図とか背景とか、あるいは視界と考えればよさそうです。つまり、そういうものを見ている、その景色のことですから、

「落ち着いて見てみれば」

というように、英語ではパースペクティブという名詞を、日本語では動詞として訳すとおさまりがいいように思います。

 

残りの③④⑤が、文の中心になりますね。

should が仮定法で、スチーブンスがファラディさんの心中を推し量っていることを表しています。would や could ではなく、should なのは、想像ではあるものの確信の程度が高いことを表しています。

「that 以下のことは、言っておかねばなりませんが」

です。

 

で、何が言いたいのかが、④⑤です。

この④⑤はひお関係でとつながりの文ですが、ブログの幅の都合で二行に分けたものです。SVOの文型で、

Sが、just such bantering で、on my new employer's part が修飾の前置詞句、

Vが、has characterized

Oが、much of our relationshipで、over these months という前置詞句が副詞的に働いて時間的な経過を表しています。

 

Vの has characterized は訳しにくいですが、「性格づけられた」は、そういうことが目立つ、と考えたらよさそうです。目的語を含めて考えると、

「ここ数か月、我々の間では、~が、目立っていた」

となります。

~が、というのが、主語④というわけで、

「新しい雇い主の側の、あの、例の冗談、が」

となり、まとめて、

「ここ数か月、我々の間では、新しい雇い主のああいう冗談が目立っていた」

となります。

「ファラディさんの冗談の多い発言」

というようなことでいいと思います。まとめれば、

「ここ数か月間私たちの雑談では、ファラディ様の発言のこのような冗談が目立っておりましたことを申し上げておかねばなりません」

としたらどうでしょうか。

 

全部まとめると、

「確かに、落ち着いて眺めてみれば、ここ数か月間私たちの雑談では、ファラディ様の発言のこのような冗談が目立っておりましたことを申し上げておかねばなりません。困ったことに、どうお応えしたものか、さっぱりわからないのでございますが」

としました。

 

 

 

154番です。

 

he was, I am sure, merely enjoying the sort of bantering which in the United States, no doubt, is a sign of a good, friendly understanding between employer and employee, indulged in as a kind of affectionate sport.

 

前の文がセミコロンで終わっていたので、この文は小文字で始まっていますが、文法的には独立しています。つまり、これだけを考えればいいのですが、内容的には、前の文を補足しています。

 

例のごとく分解をしてみます。

挿入部分を取り除く感じで分ければいいのですが、・・・

 

① he was

②                    , I am sure,

③      merely enjoying the sort of bantering

④         which in the United States

⑤                    , no doubt,

⑥         is a sign of a good

⑦           , friendly understanding between employer and employee,

⑧         indulged in as a kind of affectionate sport.

 

こんな風に分解できました。②、⑤、⑦が挿入部分で、意味を補っているのですが、構造的にはなくてもいい部分です。

 

注意すべきは、⑥の good です。

これは名詞で、「良さ」ということです。それに冠詞の a がついて、その後から⑧の過去分詞の形の形容詞が修飾しているというものです。

⑥は「良さのしるし、である」と訳せ、どういう良さかというと、⑧のaffectionate なスポーツとして許容されている、良さですよ、となるわけです。

その⑥と⑧の間に、⑦が挿入されていたのです。

⑦は、friendly という形容詞から始まっていますが、これは understanding にかかっているもので、ごく普通の形容詞です。

肝心なのは understanding で、これは動名詞なのです。good と同格のものとして、⑦は挿入されていることになります。good を、もう少し詳しく、限定して、説明しているわけです。

「雇い主と雇われ人の間の友好的な理解としての、良さのしるし、」

となるわけです。

 

この⑥⑦⑧の部分が、④の which の述語部分となっています。which は関係代名詞ですが、④⑥⑦⑧においては主語となっており、①③の部分については、bantering を先行詞として、意味を修飾しているのです。さらに、それぞれの部分に②と⑤が挿入されているというわけです。

 

①に戻りましょう。

①③が、この文の骨格で、

「彼は、冗談の掛け合いを単に楽しんでいた」

ということで、そう言う風にスチーブンスが思っていたのです。

he はもちろんファラディさんですから、

 「ファラディ様は、単に冗談の掛け合いを楽しむおつもりだったのです」

となりそうです。

 

そのあとに、④⑤⑥⑦部分の訳を続けていきます。

 

「それは、アメリカでは雇い主と雇われ人の間の友好的な理解としての、良さのしるしというべきものでございます」

 としましたが、もっといい訳が間違いなくありますね。

どうすればいいでしょうか。

 

 

 

153番です。

 

Embarrassing as those moments were for me, I would not wish to imply that I in any way blame Mr Farraday, who is in no sense an unkind person;

 

セミコロンでおわっていますから内容的には次の文に続くわけですね。ただし、文法的にはこの文だけで完結しています。

 

まず分解してみます。

 

① Embarrassing as those moments were for me,

② I would not wish to imply that

③                             I in any way blame Mr Farraday,

④                                                    who is in no sense an unkind person;

 

このように分解できるでしょうか。

 

①の were と②の would が、仮定法の形で呼応しているように見えます。

が、表現されている内容は過去の時点での事実とも考えられる事柄で、直説法の過去形で表現できるものです。それは時制の一致ということで、仮定法と考える必要はないものです。

ただし、動揺というものは目には見えないわけで、そういうものを感じるのは頭の中の意識の働きだと考えれば、これは仮定法とも見れます。

直説法のような、また仮定法のような、というところで、どちらともとれるような中間の気分を表しているのだなと考えておくのがいいように思いますが、as が今度は気になりますね。 

そういうところで ①は、普通の形に書きかえれば、

As those moments were embarrassing for me,

となり、as の役割もはっきりします。原因結果の訳を付ければ、ので、とか、だからを入れればいいことになります。

ということは、those momennts という複数形に対応した過去形の were と、祖の過去形に一致させた意志未来 will の過去形 would という組み合わせであったわけで、仮定法ではないのですね。

those moments が主語で、were が動詞の過去形、embarrassing が補語という、SVC の文型です。

時間が動揺していました、という直訳になるのですが、動揺しているのは時間ではなく、本当はスチーブンスの気持ちです。

穴があったら入りたい、とか、消えてしまいたい、けれど、その場にいて旅行の許しを得なければならないし、さらにガソリン代の件も言質が欲しい、ということで消えるわけにはいかないし、時間がたつほど動揺が大きくなるというところです。

 

②は that 以下を吹き込もうとはおもっていない、ということですね。

 

③と④は、同じ形の in any way と in no sense を挿入して強調しながら形を整えています。対句っぽくなっています。

挿入したものを取り除くと、文が見通しやすくなります。

I blame Mr Farraday who is unkind person.

who という関係代名詞の一番最初の例文にありそうな文になりました。

これに取り除いた前置詞句をいれて強調すればいいわけです。

 

まとめて、

「ファラディ様が、いかなる意味でも思いやりのない方であると、非難する気持ちはこれっぽっちもありません」

ですね。

 

というところで、

「当惑したのでございますが、だからファラディ様は思いやりの気持ちをまったくお持ちでない方だと非難しようとはぜんぜん思いません」

としました。