100番です。

 

It is as though the land knows of its own beauty, of its own greatness, and feels no need shout it.

 

カズオ・イシグロらしい文です。

強調構文といっていいと思うのですが、that が省略されているので、その変形ですが、一般的に名詞や形容詞が強調されることが多いのですが、ここでは as though という接続詞が強調されることになります。

また、この形は、as though という接続詞を名詞として扱って書いているとも言えます。そういう品詞的な認識が英語的な感覚と少し違うところが、カズオ・イシグロの文が新鮮に感じる一因かもしれません。

 

とりあえず分解してみましょう。

 

⓵ It is as though (that)

② the land knows of its own beauty,

③        of its own greatness,

④       and   feels no need shout it.

 

that を挿入すれば、強調構文の形が整います。また、It が仮主語で、that 以下が真主語と考えれば、that 以下が as though である、という文になります。that が明記されていないのですから、その辺りは明確にしたくなかった、あるいはなんとなくそういう気分で、という気持ちだったのだろうと思います。

 

いずれにせよ、三つのことを述べており、はじめの二つは同じパターンで繰り返され、三番目は、その結果騒ぎ立てることが予想されるけど、あくまでも品格を重んじる。

宮沢賢治の「いつもしずかにわらっている」とか、芭蕉の「岩にしみいる蝉の声」などを思い出します。

 

②は、「わが国土はその美しさを知っている」で、

③は、「そして、その偉大さも知っている」となり、

③は、「けれども、それを声を大にして叫ぶ必要を認めない」

となります。

 

そういうことを控えめに強調する訳を目指せばいいようで、

「しかし、わが国土は、自身の美しさを、さらには、その偉大さを知っているがゆえに、声高に騒ぎ立てるようなことはしないのでございます」

とします。