183番です。

 

As it happened, I had that same morning been giving thought to the dilemma of whether or not I was expected to reciprocate my employer's bantering, and had been seriously worried at how he might be viewing my repeated failure to respond to such openings.

 

長い文です。分解が必要ですね。

 

① As it happened,

② I had

③      that same morning

④         been giving thought to the dilemma of whether or not

⑤                           I was expected to reciprocate my employer's bantering,

⑥ and had been seriously worried at

⑦       how he might be viewing

⑧                                     my repeated failure to respond to such openings.

 

こんな風に分解できます。

まず、①は前の文ファラディさんが質問した出来事が起こったときに、ということですね。これは as 節ですが、when 節とおなじです。

②から⑤までの文と、⑥からの文と、この二つの文がand で結ばれています。この二つが as 節に対して主節になっています。

②は、④に続いています。つまり、③は挿入句というわけで、③を抜いて考えれば、②から④へ、had been という形につながっていることが分かります。

そうすると、⑥の and 以下の had been と同じ形になることが分かります。対句ですね。改めて書いておくと、

       I  had been giving thought to ...

and    had been seriously worried at ...  

となります。

 

構造が分かれば、何とかなりそうですね。要するに、ファラディさんが質問した時に、スチーブンスは二つのことを悩んでいたようです。

 

④は whether or not は、接続詞的に使われるようです。「(~する)かどうか」です。

⑤は、「ご主人様のボケに対してツッコミを返すことが期待されている」ことですから、④の whether or not 「するかしないかというジレンマに、考えることを突き付けられていた」となりますね。

thought to the dilemma となっているので、to を使うことに、へー、こうなんだ、ととりあえず納得するのですが、もし自分で英語で言うことになったら、間違いなく of を使って thought of the dilemma というでしょうね。

前置詞は、私たち日本人からすると、一筋縄ではいかない意味を持っているようです。また、感覚的なズレというものも感じます。

⑤は、「ご主人様の冗談に応えることを期待されている」です。

ここまでをまとめると、

「ちょうどその時、私は ご主人様の冗談に お応えした方がいいかどうかに 悩んでおりましたし」

となりそうです。

 

そういう気持ちでいるところへ、ご主人様が謎を含んだ質問をしてきたものですから、スチーブンスは身構えてしまうのですね。

⑥⑦⑧は、ファラディさんが罠をかけようとしていることを見抜いているスチーブンスが思っていることですね。

「こういう始まりに どうせまた 受け止め方を 間違えると ご主人様は 見通して

いらっしゃると 心配しておりました」

とりあえず直訳すれば、こういう感じでしょうか。

 

まとめると、

「ちょうどその時、私は ご主人様の冗談に どうお応えするかに 悩んでおりましたし、 こういう始まりの 受け答えに また躓くはずだと 思ってらっしゃることが  煩わしくもありました」

としました。

 

 

 

182番です。

 

My employer was reffering, I realized, to pair of gypsies gathering unwanted iron who had passed by earlier making their customary calls.

 

分解してみます。

① My employer was reffering

②  , I realized,

③                             to pair of gypsies

④                                                  gathering unwanted iron

⑤                                             who had passed by

⑥                                   earlier    making their customary calls.

ここまで細かく分解しなくてもいいとは思いますが。

前置詞句、現在分詞、関係代名詞などで分けてみた結果です。

 

①は、過去進行形です。現在進行形の過去形ということです。「ご主人様は、おっしゃっていた」ですね。reffering は、③の to pair of gypsies に続いていきます。

 

②は、コンマで挟まれて挿入節のようになっていますが、これが主節です。「私は知っています」ということで、I know をより丁寧に言っていることになります。ご主人様に言っているわけですから、より丁寧、うやうやしく言うわけです。主節らしく、語順を書き換えると、

I realized (that) my employer was reffering to pair of gypsies ...

となります。 that を補いましたが、that 以下のことを知っている、となります。

 

①の reffering は、③の to pair of gypsies に続くのですが、この部分は gypsies を主語のように訳すといいようです。

「二人のジプシーが、~していることをおっしゃっているのだなと思いました」となるわけです。

 

④は、鉄くずの引き取りをしている、ですね。不要金属製品回収業者ということになります。

ジプシーは、イージプシアン、つまりエジプト人、のなまったものだと思います。エジプトから地中海を渡って、ヨーロッパやイギリスに出稼ぎに来ている人たちのことですね。家族を中心とする集団で移動しながら稼いでいるわけです。

 

⑤は、(この邸館の横を)通り過ぎた(ジプシーが)、です。

⑥は、earlier は、比較級になっていますが、何かと比較しているのではなく、単純に朝も早くから、という意味ですね。強調です。

making their customary calls は、「いーしやきいもぉお」とか、「わらびぃいもちー」とか、「廃品回収車が参っております」とかの商売上の掛け声のことですが、一言ではなんと言うのでしょうか。

 

ということで、まとめると、

「ご主人様は、朝早く邸館の前を、廃品の回収を知らせる大きな声を上げながら通り過ぎたジプシーのことをおっしゃっているのだと思いました」

となります。

 

 

 

 

181番です。

 

'I suppose it wasn't you making that crowing noise this morning, Stevens?'

 

前の文とはセミコロンで分けられていました。話しかけられた内容です。ピリオドで区切った場合とどう違うのかはわからないと言うしかないのですが。

 

分解してみましょう。

① 'I suppose

②                  it wasn't you making

③                that crowing noise this morning, Stevens?'

こんな感じになります。

②のIt は、この形なら仮目的語ということになり、真の目的語は、③のthat 以下です、と説明することになるのですが・・・。

中心になる文は、②と③ということになりますが、最後に ? マークがついているので、この文は疑問文なんですね。倒置形になっていることに注意しなければいけないようです。

倒置する前の形は、

you wasn't making it that crowing noise this morning, Stevens?

となります。

 

あれれ、 that は関係代名詞で、it はその先行詞に見えますね。

と言っても、that 以後は文にはなっていないところが不思議なところです。

たぶんこれも正解です。

ということで、仮目的語、といい、先行詞、といい、名前は異なっていますが、文の中での役割は、そう変わらないようです。

ただ、倒置形にして、先行詞と関係代名詞が離ればなれになるとこういう不思議な文になってしまうようです。it は、主格も目的格も同じ形というのが、それに輪をかけているようです。

 

いろいろ悩みましたが、結局、正解は it と that crowing noise というが同格ということだと思います。疑問文で、目的語が離れてしまうので、it で受けておいたということです。訳としては、

「けさがたの あの カラスが出すような やかましい音は お前が出していたのかね」

とすればいいようです。

 

日本文は、あまりこういう疑問文とか反語文を使わないように思います、特に最近は。字面をそのまま取り上げられて、というか、切り取られて、というのが最近の傾向ですが、いちゃもんをつけられるのを警戒するのですね。

それにしても、こういう文をさらりと書くカズオ・イシグロはさすがだと思います。

 

直訳すれば、

「お前は けさ カラスが出すような騒音を たててはいなかった かね」

となります。これでいいようですね。

 

教室では悩みましたが、疑問文の語順が解決を長引かせたわけです。原点に確認しましたが、ミスタイプはありませんでした。

 

 

 

 

180番です。

 

I was serving Mr Farraday morning coffee in the breakfast room when he had said to me:

 

最後はコロンになっています。ファラディさんがおっしゃった言葉が続くようです。

教科書的な過去進行形(現在進行形の過去形という方が分かりやすいかも)とSVOOの文型です。

 

when 節は、「ファラディさんが私に話しかけられたとき」ですね。

in the morning room は、「朝食の部屋で」でいいと思いますが、ダーリントンの邸館なら朝食室という専用の部屋があっても不思議ではなさそうなので、「いつもの朝食の部屋で」としておきましょう。

I was serving Mr Farraday morning coffee は、SVOOですから、「私はファラディさんに朝のコーヒーを用意しておりました」となります。

 

英文の順につなげれば、

「ファラディさんが話しかけられたとき、いつもの朝食の部屋で 私は朝のコーヒーの用意をしておりました」

となるのですが、どうもしっくりしません。ということで、

「いつもの朝食の部屋で、私が朝のコーヒーを用意しておりますと、ご主人様が話しかけられました」

としました。

この方が落ち着くと思うのですが。

 

  

179番です。

 

I did though on one occasion not long ago, pluck up the courage to attempt the required sort of reply.

 

 pluck up を強調したかったようです。did を入れています。その間に though 節が挿入されているので、分かりにくい形になっています。この部分をはずして did と pluck up をくっつければ見やすくなります。

強調したいので、普通はあまり使わないオーバーな言葉を使っているようです。courage 勇気をもって とか、pluck up 引き抜く などですね。

そんなに、冗談を言うのに決心がいることなのかと、思ってしまいますが。人の習い性というのはこういうことなのかもしれません。

 

分解というより、ちょっと見やすくなるように並び替えをしてみます。

 

① I did

② though on one occasion not long ago,

③        pluck up the courage

④           to attempt the required sort of reply.

 

①の did は、③の pluck up へ続きます。②の挿入部分は、前に持っていくのが普通でしょうか。一般的な語順にするなら、

Though on one occasion notolong ago, I did pluck up the courage

となります。

did は、強調のための助動詞で、ここも強調しない形にするなら、I plucked up です。

pluck は、ぐいっと引っ張る、ということで、勇気をぐいっと引っ張る、わけですね。勇気をふるって、という感じです。

ちょっと前に、思い切って、冗談を言うことに 挑戦してみた ということで、スチーブンスは、その顛末を話してくれるようです。

 

①は、「私は、した」でしょうか。

②は、「実は、ちょっと前のことになりますが」で、

③は、「勇気をふるって」で、

④は、「お望みの冗談をお返ししてみようと試みたことが」です。

 

つなげると、

「実はちょっと前のことになりますが、私は勇気をふるってお望みの冗談をおかえししてみようとしたことがございます」

となります。

ということで、

「実は少し前のことですが、私は思い切ってお望みの冗談をお返してみようと考えたことがございます」

としました。

  

 

178番です。

 

One need hardly dwell on the catastrophic possibility of uttering a bantering remark only to discover it wholly inappropriate.

 

久し振りに、接続詞などのない単文ですが、分解してみます。

 

① One need hardly dwell

② on the catastrophic possibility of uttering a bantering remark

③ only to discover it wholly inappropriate.

 

こんな感じになるでしょうか。

①の One が主語で、dwell が動詞( need が助動詞、hardlyは副詞、で、この三語で動詞句というわけです) で、SVの文型です。

②は前置詞句、③は不定詞句ということです。

 

hardly は、クセのある副詞で、要注意です。否定的に訳す必要があります。

not 以外の否定表現ということになります。

そういうものを書いておくと、

few / little  「ほとんどない」

hardly / scarcely  「ほとんど~ない」

seldom   「めったに~ない」

が、あります。

 

ということで、①は、「人は ほとんど  暮らさねば ならないのは ない」となります。「とても耐えられない」というような感じですね。

 

②はある状況を説明しているようで、すなわち、

「冗談のお返しを言うことの壊滅的な可能性において」となりますが、要するに、

「下手な冗談を言って、その場を白けさせるかもしれない」くらいなことでしょうか。

 

③は、不定詞句ですが、it は②の a bantering remark ですが、discover は発見するなのですが、わかる、くらいです。となると、

「それが全く場違いだとわかる」あたりでいいようです。

 

まとめると、

「全く場違いだと分かるような下手な冗談を言って、その場を白けさせることになるようなことには、とても耐えられない」

となるようです。もう少し流れのある訳がありそうですが。

 

 

 

 

 

177番です。

 

For one thing, how would one know for sure that at any given moment a response of the bantering sort is truly what is expected?

 

「書は人なり」と言いますが、「文も人なり」なのでしょう。スチーブンスはこういう性格、あるいは職業柄こういう風になってしまったのかもしれません。なんとも回りくどい文のように感じます。

ということで、分解です。

 

① For one thing,

② how would one know for sure

③                                      that   at any given moment

④                 a response of the bantering sort  is  truly

⑤                                                         what is expected?

 

こんな風に分解できるでしょうか。

①は、前置きで「たとえば」とか、「お聞きしますが」という感じです。

②の sure は名詞です。前置詞にくっつくのは名詞ですからね。ただし、これは熟語です。「確かに」とか「確実に」と副詞に考えればいいのです。つまり、副詞句として挿入されているわけなので、これを取り除いて、know の目的語が that 以下と考えれば、構造がシンプルになります。

ただ、この sure が名詞であることを利用して、③の that の先行詞として使っていると考えてもよさそうで、この方が複雑ですが、味が出るように思います。

単純な副詞と考えるなら、that の代わりに 先行詞を含む関係代名詞の what を使う手もありますね。その場合は、

how would one know for sure what at any given moment a response of the bantering sort is truly what is expected? となって、what 以下が know の目的語(目的節)になるのですが、すんなりとしてしまいます。原文のように、that が sure に絡んだ方が、スチーブンスのセリフらしい感じがします。

③の残りは、挿入句です。「与えられた瞬間に」ですから、「その都度」あたりでしょうか。要するに相手が、大体はファラディさんですが、冗談を言ってきたときに、とか、言ってくるたびに、という感じです。具体的に、「冗談を言われたときに」と言ってもいいと思います。

④と⑤で、SVCの文型になっています。

④の a response of the bantering sort が主語で、⑤の what is expected が補語というわけです。

④の「冗談のようなものでの返事」と言っていますから、スチーブンスは自分の冗談にはやはり自信がないのですね。

⑤の what は、先行詞を含む関係代名詞です。「期待されていること」で、「こと」が入っていることがミソです。

 

ということで、

「お尋ねしますが、冗談を言われたときに、本当に期待されていることは、冗談のようなことを返すことだと、どなたがどこまで確信しているでしょうかね」

としましたが、回りくどいとしてももっといい訳がありそうです。